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天国の扉

セフレの彼は幼なじみ25

 リビングのドア前で、菜那美は中で座ってくつろいでいる陸翔の母に声をかける。

「おばさん、こんにちは! お邪魔してます!」

「あら、菜那美ちゃん! 来てたのね、いらっしゃい! ゆっくりしていってね」

 陸翔の母は明るい表情で、快活に挨拶を返した。

 菜那美が赤ちゃんの頃からの知り合いなので、二人はすでにかなり気安い間柄だ。

 それでも、菜那美はいつも敬語で話しかけていた。

 親しき仲にも礼儀あり、ということで。

 ここで陸翔が口を挟んだ。

「菜那美はもう帰るとこだけどな」

「あら、そうなの? 何か食べて帰らない? 確か冷蔵庫にプリンが……」

 残念そうな陸翔の母。

 菜那美は微笑みながら言った。

「いえ、おかまいなく……」

 そこで再び陸翔が口を開く。

「菜那美だって色々忙しいから。それじゃ、すぐそこだけど、見送ってくる」

 すると、陸翔の母が陸翔に尋ねた。

「そういえば、彼女はいつになったら紹介してくれるの? 彼女がいるのに、菜那美ちゃんとばっかり遊んでて、大丈夫?」

 途端に険しい表情になる陸翔。

 空気を和らげようと、菜那美が陸翔に尋ねた。

 彼女の話題は、菜那美にとっても決して快いものではなかったのだが、それよりも何よりも、ここで親子がギクシャクした雰囲気になることを避けたいようだ。

「おばさんには、まだ紹介してないの?」

 陸翔が真顔で答える。

「紹介って、別にそんなの必要ないだろ。単に付き合ってるだけだぞ。しかも、まだたったの3ヶ月じゃん。年末ぐらいまで続けば、そんとき考える。もっとも、別れる可能性だって、無きにしもあらずだからな」

 最後の「別れる可能性」という部分で、ちょっと期待してしまう菜那美。

 しかしすぐに思い直し、「そんな二人の関係の破綻を願うなんて、私は最低だ」と自己嫌悪に陥った。

 絵莉花が良い人だと知っているだけに、菜那美としても二人の破局を心から願う気持ちにはなれないようだ。

 それでも、「自分もいつか彼女になれたら……」と、そのこととは相反する思いを抱く菜那美。

 菜那美としても、うまく考えがまとまっていないようだった。

 ところが、陸翔の母は、陸翔の答えに納得せず、さらに食い下がる。

「『彼女がどんな子か』ってことぐらい、教えてくれてもいいでしょ。私だって、一人息子の初めての彼女について知りたいからね」

 陸翔は「やれやれ」といった調子で、首を振りながら答える。

「別に普通の子だって。ちょっと可愛いけど」

 菜那美も、絵莉花のことが可愛いとは思っていたが、自分のいる前で陸翔が別の女子を褒めているということに対して、少しだけ胸が痛んだ。

 陸翔の母は愉快そうに笑いながら言う。

「その表現、いつだったか、菜那美ちゃんのことを聞いたときにも使ってたわね。菜那美ちゃんは『ちょっと』どころじゃない可愛さでしょ。ってことは……その彼女も、めちゃくちゃ可愛いんでしょ。分かる分かる」

「ちょっと、おばさん……。私はそんな……」

 恐れ多くなる菜那美。

 しかし、内心飛び上がらんばかりの気持ちだった。

 陸翔が密かに自分のことも「可愛い」と、母親に向かって言っていたと知ることができて。

 お世辞だとは知りつつも。

 一方、そのことを菜那美本人の前でバラされてしまったせいか、陸翔は顔を紅潮させて言った。

「絵莉花の話はもういいだろ。菜那美がいるのに、失礼じゃん。菜那美を見送ってくるから、またあとでな」

「あら、そうだったわね。菜那美ちゃん、ごめんなさいね。またいつでも遊びにきてね」

 申し訳なさそうに言う陸翔の母。

 菜那美は「気にしないでください。それでは、また」と言って、頭を下げる。

 そして、すたすたと玄関へ向かう陸翔のあとを、菜那美はついていった。

 玄関で陸翔が菜那美に言った。

「おふくろのこと、悪く思わないでくれよ。たまにああいうデリカシーのない言動もあるけど、悪い人じゃないからな」

「私だって、おばさんともお付き合い長いから、分かってるよ~。全然、気にしてないから」

「そっか、ならよかった」

 そう言ったあと、急に菜那美に顔を近づけてくる陸翔。

 菜那美は「もしかして、ここでキス?!」とドキッとしつつ、期待してしまう。

 しかし、そうではなかったようで、陸翔は菜那美の耳元に顔を近づけて、ひそひそ声で言った。

「今日はこんな駆け足みたいにバタバタ終わってごめんな。さっき言ったみたいに、夏休み開始直後くらいは、この家には俺しかいないから、そのとき存分にしよう」

 菜那美は顔を輝かせながら「うん」と頷く。

 陸翔もこころもち表情を和らげて、手を振りながら言った。

「じゃあ、また明日な」

「うん、また明日」

 そして、菜那美は玄関のドアを開け、陸翔の家を後にした。