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天国の扉

セフレの彼は幼なじみ19

 放課後、陸翔はサッカー部の練習があるというので、菜那美は部室前まで見送りに行くことにした。

 今年の春までは、しょっちゅうそのまま練習を最後まで見学し、陸翔と一緒に帰ることもしばしばだったのだが、3年生になってからは見学することすらほとんどなくなってしまっている菜那美。

 言うまでもなく、陸翔に彼女が出来たことが原因だった。

 菜那美は何となく、彼女とばったり顔を合わせることすら、気が引けたので。

 なのでこの日も、部室前で陸翔に「また明日」と挨拶をした菜那美は、見学せずに帰ることに。

 ところが、いざ帰ろうと歩き出した途端、背後から声をかけられて立ち止まった。

 振り返ると、そこにいたのは絵莉花だった。

 驚き動転する菜那美。

 まさか、こんな風にばったり出会うと思わなかったし、それに、向こうが自分の名前と顔を知っているとは思わなかったからだ。

 昼休みに顔を確認しているので、今声をかけてきた女子が絵莉花だと、菜那美にも分かったのだった。

 絵莉花は人好きのする微笑を浮かべて、菜那美に言う。

「突然、驚かせてしまってすみません。私、陸翔君と今お付き合いさせていただいている夕凪絵莉花(ゆうなぎ・えりか)と申します。失礼ですが、鷲沢さんですよね?」

 菜那美は声も出ないほど驚いていたが、どうにか「ええ」と言葉を返した。

「いつも彼がお世話になっております。それでですね、陸翔君への差し入れとしてお菓子を持ってきたんですが、たくさん作りすぎちゃって、ご迷惑でなければ鷲沢さんもお召し上がりいただけないかと思いまして」

 柔和な表情のまま、可愛いピンクの小袋を取り出すと、その中から何かを取り出す絵莉花。

 それはどうやら、銀紙に包まれたクッキーのようだ。

 絵莉花はそれを菜那美に向かって差し出す。

 いまだ驚愕と戸惑いの真っ只中にいる菜那美が、すぐに尋ねた。

「でも、いいんですか……?」

 頭の中に色んな想いが渦巻いており、菜那美は冷静な思考ができない状態だが、どうにか言葉を絞り出す。

「ええ、是非どうぞ、ご遠慮なく。お口に合うかどうかは分かりませんが」

 相変わらず微笑を崩さず、「どうぞ」と手のひら大の銀紙の塊を菜那美に差し出している。

 菜那美も、絵莉花につられて少しだけ表情を和らげて言った。

「あ、ありがとう。ご親切に。では、いただきます」

「いえいえ、どういたしまして。鷲沢さんは、もうお帰りなんですか? これから練習を見学する予定なので、よろしければご一緒に、と思いまして」

「あ、えっと……今日はこのまま帰ろうと思ってて。陸翔に……陸翔君にもそう言ってありまして。特に予定はないんですけど、突然予定変更して見学するのも、何だか気が引けて……」

「そうですか、お気になさらないでくださいね。また後日、一緒に見学できるといいですね。お帰りのところ呼び止めてしまってすみませんでした。お気をつけてお帰りくださいね。ではでは」

 そう言って、深々とお辞儀をする絵莉花。

 絵莉花の礼儀正しさに気おされながらも、菜那美も同じくお辞儀をして言う。

「いえいえ。お菓子、ありがとうございます。では、また」

 そして、手を振って見送ってくれる絵莉花に手を振り返し、菜那美はその場を歩き去った。