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天国の扉

セフレの彼は幼なじみ18

 翌日の昼休み、陸翔は彼女の絵莉花と一緒に昼食をとるというので、菜那美は他の友人たちと教室で食べる事にした。

 食べ終わってからもおしゃべりを続けていた菜那美だったが、誰かに名前を呼ばれて、そちらを向く。

 教室のドアの向こうに立っていた、その声の主は智孝だった。

 校内きっての人気者が再び菜那美を呼び出しているというこの状況を受け、またしてもざわつくクラスメイトたち。

 菜那美は、ひやかす友人たちに一言ことわってから、智孝のところへ向けてダッシュした。

 クラスメイトたちの冷やかしと羨望の視線を背後から受けつつ。

 菜那美が廊下に出ると、智孝は一言、「ついてきて」と言って、北階段の方へと歩き始めた。

 また校舎裏へ行くのかな、と想像した菜那美だったが、どうやら違うようだ。

 智孝は菜那美を後ろにつれたまま、教室のある校舎を出て、図書室や保健室のある校舎へと入っていく。

 そして階段を上り、図書室前にて立ち止まって言った。

「こういうことするの、ストーカーみたいで嫌なんだけど、さっき図書室から出てきて、何気なくそこの窓から外を見たら、気づいてしまって」

「何に?」

 きょとんとする菜那美に、智孝は一つの窓を指し示して言う。

「この窓に近づいて、下を見てみてよ」

 言われた通りにした菜那美は、すぐに「あっ」と小さな声をあげた。

 その窓のすぐ下が、この前智孝と一緒に語らった校舎裏となっているのだが、そこに陸翔と見知らぬ女子が座っている姿を認めたからだ。

 説明されなくとも、その女子こそ、絵莉花だろうということは菜那美にも容易に想像がついた。

 そこからは距離もあるので、二人がどんな会話をしているのかということまでは菜那美や智孝には聞こえないが、少なくとも何か会話を交わしているらしいということは、二人の動く口を見ればはっきり分かる。

 菜那美は「恋人同士なんだから、校舎裏にて二人で語らっていてもおかしくない」と頭では理解しつつも、大きなショックを受けた。

 しかも、陸翔が唐突に苦笑のような笑顔を浮かべたことも、菜那美のショックに輪を掛ける。

 さらに、遠目からでも、絵莉花がとてつもない美少女だということが分かったことも、菜那美を打ちのめしていた。

 そういえば、絵莉花は文武両道だと、風の噂で聞いたことがある菜那美。

 そんな子と、陸翔が二人っきりで会話していたのだった。

 菜那美と智孝がこっそりと上から見ている前で。

 陸翔の笑顔を見て、「陸翔にとっては、やはり彼女の存在が最も大きいのだろう」と想像し、菜那美は心の打撃に耐え切れずによろめいた。

 まるで、昨日のことが全部夢だったのでは、と疑いたくなってくる菜那美。

 肌を合わせて満たされていた自分が、だんだん惨めに思えてきて、絶望のあまり菜那美は頭を抱えた。

 そんな菜那美の様子を見て、心配そうな表情をみせる智孝。

「こんなところを鷲沢さんに見せても、僕と同じくショックを受けるだけだよね、ごめん。でも、ひとりでは到底、背負い込むことのできない光景だったから、つい……。こんな話ができるのは、鷲沢さんだけだから。道連れにして、本当にごめん」

 申し訳なさそうな智孝に、菜那美は慌て気味に言う。

「ううん、気にしないで。むしろ、感謝してるよ、知らせてくれてありがとう。やっぱり……私も、知らないよりは知っておいた方がいいと思うから」

「鷲沢さんがそう言ってくれるなら、助かるよ。しかし、つくづく、僕は器の小さい男だなって思うね。恋人同士なんだから、二人っきりでおしゃべりしても、何らおかしなことではないのに。見ただけで嫉妬するなんて。自己嫌悪に陥るよ……」

「その気持ち、すごく分かるよ……。私だって、本当は……陸翔の幸せを思って、応援してあげなくちゃいけないのに……。そんなこと、分かってるはずなのに……」

 菜那美は涙が出てきそうになった。

 智孝もうなだれながら、ポツリポツリと言葉を絞り出すように話している。

「僕も同じ気持ちだ……。ああ、陸翔が本当に良いヤツだからこそ、こんなに苦しいんだと思う。例えば、僕の友達の中でも……授業サボり魔や、暴れん坊の悪友たちが、絵莉花と付き合ってるというなら、僕にだって幾らでも付け入る隙はあるんだけどなぁ……。そんなときは、僕がきっと邪魔をして、絵莉花を毒牙から引き離すんだけども。でも、相手が陸翔だからなぁ……。正直、陸翔は本当に性格が良くて、彼ならきっと絵莉花を幸せにするに違いないと本気で思えるから……。多分きっと、僕よりも……。だからこそ、ツラいんだ……」

 陸翔に対する智孝の高評価が嬉しい反面、どこか複雑な感情を抱く菜那美。

 智孝のようなしっかりした人が本気で好きになる相手だという、絵莉花という子は、「きっと良い子に違いない」と菜那美は確信していた。

 少し前までは絵莉花のことを、「ルックスはすごい美少女だけど、性格があまり良くなく、高飛車なお嬢様」みたいな子だと、菜那美は勝手に想像していたのだが。

 しかし、陸翔と二人で歓談する様子を見、さらに「智孝が好意を寄せる相手」ということも考え合わせると、どうも自分の想像が外れていたらしいということを認めざるを得ない菜那美。

 なので菜那美は頷きながら言った。

「うん……その気持ちもよく分かるよ……。絵莉花さんとはお会いしたこともお話したこともないけど、良い人そうなのは分かるから」

「お互いキツイけど、乗り越えていくしかないね。もっとも、この想いを吹っ切ることはできないし、二人の邪魔をすることもできないんだけど……。今日も聞いてくれてありがとう。話せたことで、ちょっとだけ気分が楽になったよ」

「私も楽になったよ、こちらこそありがとう。また聞いてね」

「もちろん。よろしくね。それじゃ、お互い教室に戻ろう」

 そして、二人は元来た道を引き返したのだった。