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天国の扉

セフレの彼は幼なじみ10

 人気(ひとけ)のない校舎裏まで来て、腰を下ろす菜那美と智孝。

 菜那美が早速尋ねた。

「で、話って……?」

「ああ、うん……」

 話しにくそうに口ごもる智孝。

 その横顔もイケメンだったが、陸翔一筋の菜那美は全くドキドキはしていなかった。

 黙って智孝の言葉の続きを待つ菜那美。

 ややあって、智孝が続けた。

「鷲沢さんは、陸翔と仲が良かったよね?」

「え?」

 唐突に陸翔の名前が出て、全く予期していなかった菜那美はうろたえた。

 しかし、そこで言葉に詰まっていては、変に思われるので、慌てて「うん」と答える菜那美。

 智孝はさらに言葉を続ける。

「陸翔が言っててね、鷲沢さんとは幼稚園以来の付き合いだって。それって、こっちとちょっと状況が似てるんだ。絵莉花と俺も、幼稚園からではないけど、小学校からの付き合いで……」

「え? 絵莉花さんって……」

「うん、陸翔の彼女。幼なじみなんだ」

 驚いて目を丸くする菜那美。

 智孝はうつむき加減で続ける。

「それで……。本当に勝手だけど、ちょっと俺の悩み相談でもと思って……。知らなかったと思うけど、俺、絵莉花のことが好きで……」

「え?!」

 菜那美はさらに驚いた。

「うん、びっくりすると思う。実はずっと好きだったんだ。絵莉花の方は、俺のことをそんな風には見てなかったみたいだけど。で、鷲沢さんは陸翔のことは友達としか思ってないんだろうけど、置かれた状況的にはこちらと似てる鷲沢さんなら、俺のこの悩みを聞いてもらいやすいかなって思って」

 言い終わって智孝は苦笑した。

 菜那美は勢いこんで否定する。

「あ、あの……! 私だって、陸翔のこと好きで……」

「え?!」

 今度は智孝が驚く番だ。

「私も小学生の頃からずっと、陸翔に片思いしてて……。あの、このことは誰にも……」

「ああ、もちろん! 俺のことも内緒で頼むよ」

「うん」

 同じ悩みを共有する仲間と知ったことからか、二人の間には今までにもまして親しみが生まれつつあるようだった。

 智孝が言う。

「そっか……鷲沢さんも同じ思いを……。お互いキツイけど、頑張っていこう。何というか……俺、本心では……あの二人に別れてほしいんだ。でも、そんなこと思うだけでも、何だか……心苦しいじゃん。親友と幼なじみの破局を願うとか、俺はどんだけヒドイやつなんだってね」

 自嘲気味に笑う智孝。

 だが、菜那美には智孝の気持ちが痛いほど分かった。

「私にも気持ち、分かるよ……。うん、思っちゃいけないことってことも分かってるけど……。それでもやっぱり陸翔が好きだから、付き合いたいし……」

「だよな……」

 二人の間を沈黙が包む。

 しばし間があって、智孝が立ち上がって言った。

「ふう……お互いきついね。でも、鷲沢さんに話せて、少し気が楽になったよ。ありがとう」

「私も。こちらこそありがとう」

「いえいえ、呼び出したの、こっちだし。わざわざごめんね。また話、聞いてくれる?」

「もちろん。私の話も聞いてもらうことになっちゃうけど」

「そうだね。お互い話し合うことで、少しでも心を軽く出来ればいいな。それじゃ、戻ろっか。一緒に戻ると、あらぬ誤解を受けそうだから、俺は少し遅れて行くよ。じゃあ、またね」

 智孝の気配りに感謝しつつ、菜那美は「またね」と言ってその場を離れ、教室へと戻った。

 その日の夜、菜那美はひとり、自室のベッドで寝転びながら、智孝と話したことを思い出していた。

「まさか、早乙女君も同じような境遇だったなんて……」

 菜那美にとっては心底意外な事実だった。

 そして目を閉じ、陸翔のことを想う菜那美。

 まだ一度も目にしたことのない、絵莉花という彼女と一緒に歩く陸翔の姿を。

 菜那美の想像の中では、絵莉花はとてつもない美少女として描かれていた。

 陸翔が「お嬢様」と形容していたことを思い出す。

 菜那美は「とても、かなわないな」と思うのだった。

 実際、まだ絵莉花とは会ったことすらないにも関わらず。

「ああ~、早乙女君が絵莉花さんと付き合ってくれたらなぁ。私も陸翔と……」

 そんなことを呟いてしまう菜那美。

 偽らざる本心だった。

 ゆっくりと右に寝返りを打つ菜那美。

 菜那美は「もしそうなったら、全てが丸く収まるのに……」と思うのだった。