スポンサーリンク
天国の扉

セフレの彼は幼なじみ9

 陸翔が帰っていったあと、菜那美は自室のベッドでひとり、仰向けで寝転んでいた。

「セフレかぁ……」

 さっき言われた言葉を思い返す菜那美。

 菜那美もとっくに気づいていた。

 その言葉が、「身体目当て」という意に等しいことを。

 陸翔に、「俺はお前の身体目当てで近づいてる」と言われたような気がして、菜那美は少し胸が痛んだ。

 それでも、陸翔を憎んだり嫌ったりはできない菜那美。

 それどころか、内心「また交わってもらえるなら、理由は何だっていい」という気持ちすら湧いてくるのに気づき、首を左右に振った。

「でも……。あの場で拒絶できるはずがないし、仕方なかったんだよね……」

 自分に言い聞かせるように、独り言を言う菜那美。

 ベッドでごろごろ寝返りを打ち、どうにか他のことも考えようとする菜那美だったが、陸翔のことと、陸翔との今後の関係のことばかり頭に浮かんできたのだった。

 それから数日間は、何事もなく過ぎた。

 菜那美にとっては驚いたことに、陸翔の態度はいつも通りに戻っている。

 まるで、あの日の出来事が全て夢だったかのように。

 ただ、下校時に満員電車に乗る際には、陸翔は頻繁に菜那美の周囲を確認し、痴漢を警戒してくれている様子だったので、あの日が決して夢ではなかったことが分かる菜那美。

 菜那美は、そうして陸翔と一緒に下校しているだけで、少し満足してしまっていたのだった。

 夏休みが徐々に近づく、7月中旬に入ってきたある日のことだ。

 お昼休みの教室で、菜那美が女子の友達数人と話していると、教室のドア付近が突然騒がしくなった。

 菜那美たちもすぐにそちらを向く。

 すると、どうやら一人の男子が開いたドアのところに立っており、クラスメイトはそのことでざわついているらしい。

 その男子は、早乙女智孝(さおとめ・ともたか)という名前で、隣のクラスの生徒だ。

 そして、陸翔と同じサッカー部ということもあって、陸翔の大親友なのだった。

 智孝はルックスがかっこよく、文武両道なので、この学校でも指折りの女子人気を誇る男子だ。

 なので、教室のドア前まで来た時点で、すでに菜那美のクラスメイトの女子たちはざわつき始めていたようだった。

 しかし、智孝は人の良さそうな笑顔を振りまくだけで、あまり気にしていないようだ。

 もう慣れっこということかもしれない。

 そんな智孝が手招きしながら、菜那美に向かって言った。

「鷲沢さん、ちょっといいかな」

 今まで智孝がこの教室を訪れた際には、いつも陸翔とばかり話していたので、菜那美は驚いた。

 自分に用があるなんて、と不思議に思ったものの、すぐに「うん」と返事をして席を立つ菜那美。

 驚いたのは、菜那美の友人たちや他のクラスメイトたちも同じようで、みんな目を丸くしている。

 それもそのはず、あれだけの女子人気を誇る智孝には、まだ一度も彼女の噂もなく、そういう気配すら感じさせなかったからだ。

 クラスメイトたちは、にわかに「まさか、鷲沢菜那美が、あの早乙女智孝と付き合うのか?!」という思いに駆られたのか、興味津々な面持ちで菜那美を見ている。

 教室中の突き刺さるような視線に居心地の悪さを感じつつも、菜那美はすくっと立ち上がると、周りの友人たちに一言ことわってから、智孝の待つ廊下へと出た。