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天国の扉

猫好き男子と大人な部長40

 高倉のオルゴール選びに付き合ってから、家路についた架恋。

 部屋に帰りつくと、すぐに高倉の話が思い出されてきた。

 架恋は続いて、必死で謝っていた修馬の事を思い出す。

 もはやとっくに、修馬に対する憤りや不信は、跡形もなく氷解していた。

「部長の話と同じく、今回の件も修馬君がわざとやったことではない」ということを、強く意識する架恋。

 架恋は化粧を落としながら、「次、彼に会って、謝ってもらったり、『よりを戻そう』と言ってもらったりしたら、素直に喜んで関係を元通りにしよう」と心に決めていた。

 修馬のことを想うと、架恋の胸が高鳴るのは、今も全く変わらない。

 架恋は「やっぱり、修馬君が好き。修馬君じゃないと、ダメ」と強く思っていた。

 翌日の終業時間後、また用事があるという瑞穂を含め、同僚たちが次々と挨拶を交わして部屋を去っていく中、架恋はあえてゆっくりと帰り支度をしていた。

 そして、高倉と二人っきりになると、架恋が話しかけようとする。

 しかし、高倉の方が先に声をかけていた。

「石橋君、昨日はありがとう」

「そんな……私はただ付き添わせていただいただけで何も……。こちらこそ、送っていただき、ありがとうございました!」

 ぺこりと頭を下げる架恋。

 高倉は柔和な表情で言った。

「昨日よりも、ずっと顔色が良くて、私も安心したよ。石橋君がすっかり元の調子を取り戻す日も近いかな」

 架恋は内心、「本当に部長は、よく私のことを気にかけてくださってるなぁ」と、ありがたく思っていた。

 瑞穂が言うように、「自分が部長にとって特別な存在」だとは一切思わなかったが。

 それにしても、まるで高倉が事情を全て知っており、「修馬との仲が元通りに戻れてない以上、架恋がまだ完全に元気を取り戻したわけではない」ということを知ってるかのように、架恋には思われた。

 もちろん、「そんなはずはない。気のせいだろう」とも思う架恋だったが、それとなく探りを入れたい欲求が抑えきれずに言う。

「お気遣いありがとうございます。私なんかのことを、そんなにまで気にかけていただいて……。何だか、部長には、私の心理状態を全て知られちゃってるみたいな、そんな気すらします」

 笑顔で言う架恋に対し、ほんの一瞬ではあるが、高倉が驚きの表情を見せる。

 しかし、すぐさま元通りの穏やかな表情に戻って、高倉が答えた。

「ははは、私は超能力者ではないから、石橋君の考えを読み取れるはずがないよ。でもね、石橋君も、私の大切な部下のうちの一人なんだよ。部下が元気とやる気をもって仕事を行えるように、手助けをしていくことも、私の重要な役目の一つだと思っているから……元気がなさそうなときに心配するのは当然のことだよ」

 これを聞いた架恋は、納得すると同時に安心した。

 やはり、高倉にとって自分が「特別な存在」ではないと確信できたので。

 なぜ、「特別な存在」だと困るのかというと、架恋はもはや修馬の事しか考えられなくなっているからだ。

 だから、フリーの時なら大歓迎だったはずの、「修馬以外の男性からの好意」も、今の架恋にとっては「せっかくの気持ちにこたえられないから、心苦しいので、出来れば受けたくないもの」になっていたのだった。

 たとえ、相手が高倉であっても。

 なので、高倉が自分のことを、「大事な部下の一人」と思ってくれていることは、架恋にとっては色んな意味で嬉しかった。

 架恋は笑顔で言う。

「本当にありがとうございます。では、本日はこれにて失礼いたしますね」

「石橋君、お疲れ様。気をつけて帰ってね」

「ありがとうございます。部長もお気をつけて」

「では、また明日」

「はい、また明日」

 架恋は一礼の後、部屋を後にした。