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天国の扉

猫好き男子と大人な部長38

 架恋を乗せ、車を発進させるとすぐ、高倉が話し始める。

「少しは元気になったのかな? ……お節介ですまないけどね」

「いえ、そんな……気にかけてくださり、ありがとうございます。お陰様で、少しずつ元の調子に戻ってきております」

 高倉には事情を一切話してはいないので、曖昧にしか答えられない架恋。

 高倉はいつも通りの柔和な表情を浮かべて言った。

「ちょっと安心したよ。先週は本当につらそうだったからね」

「ご心配おかけしました……」

 答えつつ架恋は、「本当に部下の事をよく気にかけてくださる、良い上司に恵まれた」と実感していた。

 高倉は運転しながら、さらに話を続ける。

「話は変わるんだけど、石橋君は音楽はよく聴く?」

「ええ、よく聴きますよ」

「邦楽は聴くかな?」

「はい、特に邦楽のポップスとロックが好きですね」

「お、それはありがたい! 実は、ちょっとワケあって、これからショッピングモールにて、オルゴールを買おうと思ってるんだけど……石橋君、このあと数分ほど時間はないかな? よかったら一緒に選んでもらいたくて」

「え? 私がですか?」

 唐突な話なので、架恋は驚いた。

 しかし、この後何も予定のない架恋には、お世話になっている高倉の頼みを断る理由は一切なく、すぐに言葉を続ける。

「今日は何も予定はないですし、時間はありますので……私でよければお供いたします。ですが……なぜ、オルゴールを?」

「説明が遅れてごめんね。来週、故郷に住む妹の誕生日なんだよ。それで、オルゴールを贈ろうと思ってね。確か、あのショッピングモールには、オルゴールの専門店があったはずだから、ちょうどいいと思って。石橋君に同行をお願いしている理由は、妹が大のJ-POP好きだからだよ。私は洋楽ばかり聴いているから、どうも他のジャンルには疎くてね」

 高倉には「洋楽好き」というイメージがあまりなかったので、架恋は少し意外に思った。

 架恋の中では、J-POPやクラシックを聴いているようなイメージを、高倉に抱いていたので。

「なるほど。部長はロックなども聴かれるのですか?」

「うん、よく聴くよ。バラードも好きだけど」

「何だか意外です!」

「ははは、そういうイメージを持たれてなかったか」

 高倉はハンドルを握りながら、愉しげに笑う。

 助手席に座る架恋からは、その横顔しか見られなかったが、リラックスした感じの笑顔に見えた。

 高倉が言葉を続ける。

「洋楽のロックもいいものだよ。石橋君が興味を持ったなら、いつでもCDをお貸しするけど……こういう趣味って人それぞれだから、押し付けるようなことは良くないと思うんだ。だから、あくまでも『もし、いつか興味を持ったら』ってことでね」

 相変わらず気遣い上手な方だなぁ、と思う架恋。

「ありがとうございます。正直、洋楽はほとんど聴かないので、想像もつかないんですけど、何かオススメがございましたら、教えてくださいね」

「いやいや、無理しなくてもいいよ。そんなつもりで言ったわけじゃないから。オルゴール選び、よろしく頼むよ」

「私ではお力になれるかどうか分かりませんが、ご一緒させていただきますね。……ところで、立ち入った話になりますが……どうしてオルゴールを? あ……もし、お話したくないと思われましたら、無視してくださいね!」

 くだけた調子でおしゃべりが進んでいたので、ついつい気になったことをスムーズに尋ねてしまった架恋は、ハッとして慌てて言い足した。

 相手が上司だということを、すっかり忘れてしまっているほど、くつろいだ気分で話してしまっていたのだ。

 しかし、高倉は気にする様子も見せずに答えた。

「いえいえ、気にしないで。もちろん、オルゴールに決めたことには理由があってね。少し話が長くなるかもしれないんだけど……」

 こう前置きしてから、高倉は話し始める。

 助手席で黙って謹聴する架恋。

 車は大通りの交差点で、赤信号のために止まっていた。

 駅前まではもうすぐだ。