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天国の扉

猫好き男子と大人な部長36

 その週の日曜日、架恋は瑞穂を部屋に呼んでいた。

 架恋を心配した瑞穂が、来てくれていたのだ。

 架恋と修馬は、カフェで話した後、一緒に駅まで帰ったあの日以来、その関係に何の進展もない。

 修馬が自粛したのか、電話等での連絡もなかったし、会社で会うこともなかった。

「あまりに執拗に連絡すると、私が嫌がるかと思って、控えてくれているのかな」と考える架恋。

 架恋はそんな現状を瑞穂にすっかり話した。

 瑞穂が思案顔で言う。

「そっかぁ。つまり、まだ別れてもいないし、よりを戻してもいないわけね」

「う、うん……」

「で、架恋の気持ちはどうなの? やっぱり、またよりを戻したいって感じ?」

「何となくそんな気になってきたんだけど……。あんなに人気者の彼のことだし、また同じようなことが起きないかだけが心配で……。彼の誠意も、心から私のことを想ってくれてることも、全部私にも伝わったんだけど」

「そりゃ、心配になるよね」

 瑞穂は頷いてそう言うと、言葉を続ける。

「優しい架恋のことだし、きっと許すことになるだろなって、簡単に想像できちゃうね。だけど、部長のことはどうなの?」

 架恋は苦笑して答える。

「昨日もそんなこと言ってたよね、瑞穂。部長が私なんかを好きになってくださるわけがないでしょ。相手が瑞穂なら、十分にありそうだけど」

「架恋こそ、何を言ってるんだぁ~! 私こそ可能性ゼロじゃん! それに対して、架恋は既にかなりアプローチを受けてるでしょうが!」

「ああ、2回ほど、車で送ってもらったこと?」

「それもそうだし、架恋の話を聞いてたら、もっと色々あるでしょ! たとえば、モールまで車で送ってもらったとき、3階に用事があるって言ってた部長が、架恋を見送るためだけにわざわざ2階まで降りてくれたそうじゃん。架恋はさらっと話してたけど」

「それは、部長が親切で、思いやりの深い人だからでしょ。誰に対しても、そんな対応なんだと想うよ」

「うんうん、部長ってホント、優しくて紳士だよねぇ。……って、それはそうなんだけど、この場合はそうじゃないでしょうが!」

 うっかり架恋につられて同意しそうになった瑞穂が、ノリツッコミのように否定するのを見て、架恋は面白そうにくすくす笑った。

 自説を曲げるつもりのない様子の瑞穂が続ける。

「その日、探し物をしている架恋を、資料室までわざわざ手伝いに来てくれたり、終業時間後はひとりで探そうとしてくれたり、そういうこともあったでしょ! そのときは、私も一緒にいたから、しっかり覚えてるよ! で、『これはもしや……。架恋と部長のラブラブフラグなのでは?!』と期待した私が、『頑張ってね』っていう意味で架恋にウインクして、二人っきりにしてあげたわけだよ」

「それも、単純に、部長が部下思いなだけで……」

「じゃあ、2回目に送ってもらったとき、架恋の家まで送ってくれたことはどうなのさ。いくら心配してるからといって、5分や10分で着くような近場じゃないんだよ。それを、雨が降ってるわけでもないのに、家まで送ってくれるって……。それにそもそも……前にも言ったけど、部長の車の助手席に乗った女子は私の知る限り架恋だけなんだよ。どう考えても『架恋は特別』ってことだと私は思うよ」

 こう言われると、瑞穂の言うことにも一理あると認めざるを得ない架恋。

 しかしあくまでも「一理ある」と思えただけで、「全て瑞穂の言う通りだ」とは、架恋には全く思えなかった。

「たしかに、瑞穂の言っていることは、分からなくもないよ。親切すぎるって言いたいんでしょ。でも、たったそれだけのことで、『部長にとって、私が特別』とは言い切れないと思うな。もし瑞穂が同じ状況に陥ったら、きっと部長は同じように手助けしてくれると思うな」

「ま、まぁ、高倉部長って、超絶に優しくて親切だからね。間宮先輩の話では、私たちが入社する前に、先輩が大きなミスをしてしまった際にも、『私が処理しておくから心配要らないよ。ただ、次からは気をつけてくれると嬉しいな』とだけ言って一切怒らなかったんだとか。超有名大学卒で、31歳にして部長に昇進したエリートで、ルックスも超イケメンで、背も高いのに……内面までイケメンだとか……私も胸がときめいちゃうなぁ」

 目をキラキラさせて言う瑞穂に、架恋も嬉しくなり、瑞穂を応援したくなった。

 瑞穂がハッと我に返った様子で、慌てて言う。

「ち、違ーう! 私が言いたいのはそうではなく! 私のことはどうでもよくて、問題は、部長が架恋の事を特別な存在だと思ってくれてるってことだよ!」

「はいはい、一つの意見として、胸にしまっておくよ」

「全く信じてない様子じゃん! でも、まぁいいか。架恋が少し、いつもの調子を取り戻してきたみたいだし。久々に、面白そうに笑ってるし」

「え……あ……」

 架恋は、「そういえば、笑顔になるのも久々だったかな」と気づいた。

 そして、瑞穂に感謝し、「やはり、持つべきものは友かな」と思う架恋。

 その後は、たわいもない話をしたり、瑞穂が持ってきてくれた映画のDVDを観たりして、二人は楽しい時間を過ごした。