スポンサーリンク
天国の扉

猫好き男子と大人な部長33

 この日も例のカフェで食べようということになり、会社を出た架恋と瑞穂は、そこで修馬と鉢合わせになった。

 思わず後ずさりするほどに動揺する架恋。

 修馬が何か話しかけようとしたが、それより早く瑞穂が口を開いた。

「あ、宮沢君、こんにちは。これからちょっと、架恋と一緒にお昼ご飯を食べようと思いまして」

「あの……ちょっと、架恋と話があって……。俺も一緒に行ってもいい?」

 いつの間にか瑞穂の後ろに隠れるような格好になっていた架恋は、修馬の言葉に驚いた。

 そっと架恋の様子を確認すると、瑞穂は溜め息をついて話し出す。

「あのね、宮沢君。私は全ての事情を聞いたわけじゃないけど……架恋は今、混乱し、傷ついてるの。そのくらい、宮沢君も分かってるはずだけど?」

「うん、それは分かってる。本当にごめん。だから……しっかり話がしたいんだ。言い訳するつもりも、自己弁護するつもりも一切ないけど、誤解があると思うから」

「どんな事情があるにせよ、あんな写真を撮らせる方がどうかしていると思うよ。とりあえず、架恋はまだ話し合いをできる状態じゃないし、こんなところで立ち話してるのも目立つから、これで失礼するね。さ、架恋、行こ」

 瑞穂は架恋の手を引くと、修馬の「ちょっと待ってくれ」という声を無視して歩き出す。

 架恋は一言も発せないまま、瑞穂のあとをついていった。

 いつものカフェの席に落ち着く二人。

 どうやら、修馬は追ってきてはいないようだった。

 もっとも、架恋たちも決して、逃げてきたわけでもないのだが。

 注文を済ませた後、瑞穂が言った。

「何も、架恋が気に病むことはないよ。みんな、あの男が悪いんだから」

「あ、う、うん……。でも、何か話したそうにしてて……」

「前々から宮沢君をイチオシしてた私が言うと、『どの口が言ってんだ』『お前が言うな』って感じかもしれないけど……彼のことはもう諦めた方がいいと思うよ。さっきも言ったけど、どんな事情があるにせよ、あんな写真を撮らせる状況に陥るだなんて、脇が甘いとしか言いようがないし。どうせ、今後も同じような問題ばっか起こすに決まってるから」

「あ、うん……。でも……まだちゃんとお別れを言ってなくて」

「ああ、そうだったのね。なら、メールとかでいいんじゃない? 別れる原因を作ったのは向こうだし、『直接会って言わないと』とか律儀に考えなくてもいいと思う」

 心底立腹した様子で話す瑞穂に、架恋は感謝の気持ちでいっぱいだった。

「瑞穂、色々ありがとう。ごめんね」

「いえいえ。あ、そういえば、指輪、やっと外したんだね」

 架恋の右手を見ながら言う瑞穂。

 今朝、悩んだ挙句、架恋は指輪を外してきたのだった。

 そこで悩むということが、「まだ修馬の事を吹っ切れていない」という事実を示しているようで、それもまた架恋にとってはつらかったのだが。

 修馬との楽しかった日々を思い出すと涙が出そうになるので、慌てて別の事を考えようとする架恋。

 架恋は「うん、まぁ」と曖昧な返事だけ、瑞穂に返しておいた。

「今はショックだと思うし、気持ちを切り替えにくいとも思うよ。気持ち、すっごく分かる。だけど、またすぐ良い人が見つかると思うから、元気出してよ。新しい恋へ向かって、邁進だ! そういえば、部長とは最近どんな感じ? こないだ、部長の車の助手席に座らせてもらったんでしょ。あれ以来、同じようなことはないの?」

 架恋は苦笑しながら答える。

「実は昨日また……」

「うわ、マジ?! 高倉部長、絶対、架恋に気があるじゃん! 部長が他の子を助手席に乗せた話なんて、聞いたことがないよ!」

 嬉しそうに身を乗り出す瑞穂。

「でも、瑞穂……部長のことが好きって言ってたんじゃなかったっけ」

「たしかに、好きだけども……お相手が架恋だったら、快く譲れるよ。……私のものじゃないけどね」

 そういえば同じようなやり取りをしたことがあったっけ、と再び苦笑する架恋。

 だが、そのとき話題にしてたのは修馬のことだったと思い出してしまうと、架恋の笑顔は吹き飛んだ。

 その後は、たわいもないおしゃべりを続け、やがて運ばれてきたランチを二人は一緒に食べた。