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天国の扉

猫好き男子と大人な部長30

 どこかで眠っている様子の、修馬の胸から上を写した写真が表示されていた。

 修馬は少なくとも上半身は裸だということが、写真から容易に見て取れて、ショックのあまり呆然とする架恋。

 よくよく目を凝らすと、目を閉じる修馬の頭の下には枕らしきものがあり、真っ白いシーツのようなものの上に修馬が寝ている様子だったので、「恐らくどこかのベッドか布団の上だろう」という予測がつく。

 瑞穂が口を開くより先に、篠宮が説明してきた。

「これは、私のベッドで彼が寝ているところですよ」

 ここで再び、瑞穂が口を挟む。

「どうして、そんなところを写真に収める必要があったんですか?!」

「そんな枝葉末節、どうでもいいじゃないですか。大事なことはただ一つ。修馬君が私のベッドで眠られた、ということです。そして、彼の格好は、見ての通りですよ。画像の片隅に出ている撮影日時を見ていただくとお分かりのように、昨日の深夜に撮影したものです。夜に、私のベッドにて、こんな格好で寝てくれている……そういうわけです。どうでしょう、これでもデマだの嘘だの言い切れますか?」

 架恋は目の前が真っ暗になった気がした。

 瑞穂の方はというと、一瞬口ごもるような様子を見せたが、それでも言葉を返す。

「この写真が捏造なんじゃないですか? 合成したり編集したりして……」

 篠宮はスマホを自分の手元に戻し、操作してから再びしまい込むと、平然と答えてきた。

「写真は正真正銘、本物ですけど……信じないなら、別に信じてもらわなくても結構です。一番、手っ取り早いのは、修馬君ご本人に尋ねてみることじゃないですか? さて、私の話は以上です。そういうことなので、もうあまり修馬君には付きまとわないでくださいね」

 そう言い捨てると、篠宮はスタスタと元来た道を引き返していった。

 振り返りもせずに。

 篠宮の姿が見えなくなると、瑞穂が言った。

「ふん、あんなのどうせインチキに決まってるよ! 架恋、気にせずに宮沢君に会いに行こう!」

「う……うん……」

 架恋にはもう何が何だかさっぱり分からなかった。

 ついつい、悪い方向にばかり考えが行ってしまう。

 修馬が「話がある」と呼び出していることと考え合わせると、嫌な予感しかなかった。

 それでも、元気付けてくれる瑞穂に続き、屋内へと戻る架恋。

 修馬の話が重大なものではないことを、架恋はひたすら祈っていた。

 架恋と瑞穂が駐車場にて数分間待っていると、修馬の姿が現れた。

 こころなしか、足取りは重そうに見受けられる。

 挨拶を交わしたあと、瑞穂が言いにくそうに言った。

「二人っきりで話がしたいだろうから、私は帰るね。今日は特に何も用事がないから、いつでも連絡してきてね、架恋」

 瑞穂の気遣いに対し、架恋は「ありがとう」と声を絞り出して言う。

 そして、挨拶を交わしてから、瑞穂は静かに立ち去っていった。

 人気(ひとけ)のない駐車場にて、取り残された架恋と修馬。

 修馬が、先ほどの瑞穂よりもさらに言いにくそうな様子で、口を開いた。

「もう、あの噂は耳にしてるかもしれない……。ごめん……」

 修馬は深々と頭を下げる。

「え? まさか……本当に……?」

 架恋は上手く言葉が出てこなかった。

「いや、俺にも全く覚えがないんだ……。昨夜の飲み会、特に篠宮さんが営業部長をけしかけて、やたらと俺たちに酒をすすめてきて……。店を出たときには、既にフラフラになってたような気がする。つまり、店にいるうちから、もうかなり記憶が怪しかった」

 時折言葉を詰まらせながら言う修馬。

 架恋は「何があったのか知りたい」という思いに駆られ、問い詰めた。

 修馬はしどろもどろになりながら言う。

「信じてくれ、本当に何も思い出せない……。篠宮さんはあんなとんでもない噂を流してるけど……」

「じゃあ……どこで目を覚ましたの?」

 ここで長い沈黙があった。

 それから、ポツリと「篠宮さんの部屋」と言う修馬。

 架恋は泣きたくなってきた。

「じゃあ……篠宮さんの言ってることは何も間違ってないじゃない!」

 涙を堪えて、大きな声を出す架恋。

 その声は駐車場に響き渡った。

 それでも、修馬がいくらなだめても、架恋の動揺を鎮めることはできないようだ。

「信じてくれって! 篠宮さんに対して何かした覚えは、一切ないから!」

「でも、何もしてないと言い切れないんでしょ?!」

 再び返答に窮した様子の修馬。

 見かねた架恋が、再びなじった。

「あれほど……! あれほど、『浮気だけはしないで』って言ったのに!」

「浮気じゃない!」

「浮気だよ! じゃあ、あり得ない仮定だけど、私が修馬君以外の男性のベッドで寝ても、修馬君は浮気じゃないって言いきれるの?!」

「そ、それは……!」

「もういい……! 篠宮さんとお幸せに……!」

 架恋は肩をいからせると、走って逃げ出そうとする。

 しかし、修馬がグッと架恋の右腕を捕まえて、阻止してきた。

「放して! 私のことなんか、もうどうでもいいでしょ! 篠宮さんっていう綺麗な彼女が出来たんだから!」

「俺の彼女は架恋だろ!」

「もう下の名前で呼ばないで! 痛いから放して!! 痛めつけてもいいって思えるほど、私のことがどうでもよくなったの?!」

 そう言われ、思わず手を放してしまう修馬。

 その瞬間、架恋は脱兎のごとく逃げ出した。

 涙を頬に伝わせながら。

 修馬は「待てって!」と言うと、急いで追いかける。

 そんなときだった―――。