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天国の扉

猫好き男子と大人な部長29

 やがて終業時間が来た。

 架恋は言いようのない不安に襲われつつも、どうにか乗り切ったような格好だ。

 帰り支度をしていると、瑞穂が気遣う様子を見せて言ってきた。

「この後、駐車場で待ち合わせだっけ?」

「うん、そうだよ」

「じゃあ、駐車場で一緒に待つよ」

 明るく言う瑞穂に、架恋は「いいの?」と尋ねる。

「もちろん!」

 元気良く答える瑞穂に、架恋は心から「ありがとう」と言った。

 そして、帰り支度を済ませると、二人は同僚たちへ挨拶した後、部屋を出て行く。

 しかし、廊下を出た二人は、立ちすくんだ。

 そこに、当の噂の主人公である篠宮が、人待ち顔で立っていたからだ。

 篠宮がすぐに不敵な笑みを浮かべ、二人に駆け寄ってきた。

 架恋だけでなく瑞穂も意外さや驚きからか、棒立ちのままだ。

 篠宮は軽く頭を下げながら言った。

「石橋さんでしたよね? ちょっと屋上まで付き合ってください!」

 架恋は何のことか分からずに、「え?」と言うのが精一杯だった。

 すぐさま、瑞穂がフォローを入れる。

「石橋さんは、このあと先約がありますよ」

 しかし、篠宮は瑞穂には目もくれずに続ける。

「ほんの数分で結構ですから。先約って、修馬君との約束ですよね。彼、まだ来ていないはずですし、大丈夫ですよ」

 瑞穂はイライラした様子で、「でも……」と言うが、遮るように言葉をかぶせる篠宮。

「何なら1分間でも構いませんから。ここでは人目がありますし、ゆっくり話せないじゃないですか」

「瑞穂、ごめんね……ちょっとだけ屋上に寄っていくことにするけど……」

 ここで瑞穂が、篠宮に鋭い視線を向けてから、くるりと架恋の方へ向き直り、優しい声色で尋ねた。

「じゃあ、私も付き添っていいかな?」

「篠宮さんがオッケーなら……」

 篠宮は自信に満ち溢れた笑顔のまま、「もちろんオッケーですよ。では行きましょう」と言うが早いが、歩き始める。

 二人もそのあとをついていった。

 無言のまま屋上に出た三人。

 空にはまだ夕暮れの気配はなかった。

 すぐに篠宮が話を切り出す。

「単刀直入に言いますと……修馬君と私、お付き合いすることになりましたので」

 言葉も出ない架恋だったが、架恋の言いたいことを代弁するかのように瑞穂が言った。

「そんなはずはないでしょ。宮沢君は、架恋……石橋さんと付き合ってるんですから」

「私、その噂を全く信じてなくって。てっきりデマだと思ってたものでして、もし本当だったなら申し訳ないです。でも、私が修馬君とお付き合いしているのは本当です」

「それこそ、デマなんじゃないですか?」

 険しい表情で言う瑞穂。

 瑞穂がこういう厳しい態度を見せるのは滅多になく、少なくとも架恋の前では初めて見せる姿だ。

 架恋はいまだ混乱のさなかにいたが、心ひそかに瑞穂に対して感謝していた。

 自分を守るために、瑞穂が戦ってくれているような、そんな気が架恋にはしていたので。

 一方的に言い放たれた、この「デマ」という言葉に、篠宮もカチンと来たらしい。

 トゲのある口調で言い返してきた。

「つまり、証拠を見せろって言いたいわけですね。本来はこんなプライベートな写真をお見せするべきではないと思うんですけど、致し方ありません。あなた方が望まれてるんですからね」

 そう言ってスマホを取り出す篠宮。

 数秒ほど操作してから、その画面を架恋たちに見せ付けるかのように、スマホを突き出してきた。

 篠宮のスマホの画面を、食い入るように見つめる架恋たち。

 そこには―――。