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天国の扉

猫好き男子と大人な部長18

 ウキウキした様子の修馬と一緒に、架恋も顔をほころばせながら、お店を出た。

 荷物は全く増えていなかったが。

 お店に、二人の名前の刻印を頼んだため、支払いは済ませたものの、現物はお店に預けることになったのだ。

 修馬が少し残念そうに言った。

「3週間くらいかかるって言ってたっけ。結構時間がかかるんだなぁ」

「ローマ字でそこそこ文字数もあるから、仕方ないよね。待ち遠しいけど。修馬君、ホントにありがとう!」

「いえいえ、俺が買いたくて買ったわけだし、気にしなくていいって。楽しみだな。完成したら連絡をくれるらしいし、首を長くして待つことになりそうだ」

「うん!」

 架恋も心から待ち遠しかった。

 もし自分の手元にリングがやってきたら、きっと宝物になるだろうと確信する架恋。

 修馬への想いが溢れ出して止まらず、架恋はギュッとその大きな手を握った。

 修馬と二人で、最高の週末を過ごした架恋は、翌月曜日、上機嫌で仕事をしていた。

 瑞穂がニヤニヤしながら、シュレッダーを使っている架恋に声をかける。

「架恋、随分とご機嫌だね。言わなくても分かるよ、彼と上手くいってるんでしょ」

 自分では、それほど露骨に明るい表情をしていたつもりはなかったので、驚く架恋。

「うん、まぁ……ね」

「うらやましいなぁ~。私も頑張ろっと」

 伸びをしてからそう言うと、瑞穂は再びデスクに向かった。

 架恋も再び作業に集中することに。

 その後も仕事はつつがなく進み、やがて終業時間が来た。

 慌て気味に帰り支度を済ませた瑞穂が、架恋たちに挨拶をしてから、ドアを出て行く。

 今日も用事があって急いでいるということを聞いていたので、架恋は「瑞穂ってホントにいつも忙しそうだなぁ」と思っていた。

 架恋も支度を済ませると、同僚たちに挨拶する。

 そして、ドアを出ると、エレベーターへと向かった。

 架恋が屋外へ出ると、雨は朝よりもひどくなっていた。

 修馬はこの日も直帰ということを聞いていたので、もし駐車場へ行ってみても、そこにポップをなでる彼の姿を見出すことはないと知っていた架恋。

 しかし、それでもポップが少し気になって、架恋は駐車場へと下りていった。

 すると―――。

 前方に、ポップを撫でている高倉の姿を見つけ、架恋は驚いた。

 以前に、「猫が好き」ということや、ここでポップを見かけたことがあるということなどを聞いていた架恋にとっては、目の前の光景に対する驚きはほとんどない。

 架恋が驚いた理由は、「今日は仕事で大阪まで行くので、帰りは午後5時半を回るはず」と、高倉本人の口から聞いていたからだ。

 高倉は架恋に気づく様子も見せず、顔をほころばせながらポップを撫でている。

 架恋はすぐさま声をかけて、駆け寄っていった。

「部長、お疲れ様です! もう帰ってらしたんですね!」

「石橋君、お疲れ様。うん、予定より早く終わったので、今帰ってきたところ。そして、ちょうどこの猫を見つけた。名前、ポップって言ってたっけ」

「ええ、そうです。ポップ、今日もこの駐車場に来ていたんですね、こんなに大雨なのに」

「雨脚が強まったのは、ついさっきだから、ポップも困ってるんじゃないかな。この子の家は近所なんだって?」

「ええ、向かいの家みたいですよ」

 架恋が背後の駐車場出口方向を指し示して答える。

 高倉は軽く頷くと、片手で傘を持ってから、ポップを抱き上げて言った。

「それじゃ、家まで連れて行ってあげるか」

「あ、傘は私がお持ちいたしますよ!」

 ポップを抱きながら傘を差すのは大変そうだと思った架恋が、バッグを持っていない方の手で、すぐに高倉の傘を持った。

 高倉は柔和な笑みを浮かべて言う。

「ありがとう。気が利くね」

「いえいえ、とんでもない」

 そこで架恋は気づいた。

 高倉の傘を持ち、その下に一緒に入っているこの状態は、誰がどう見ても相合傘だと。

 すぐに修馬のことを考えて、慌てる架恋だったが、成り行きでこうなってしまった以上、今さら「やめます」などとは言い出せない状況だった。

 全く気にする素振りも見せず、高倉が言う。

「面倒をかけてすまないが、それでは向かいの家の前まで行こうか」

「はい」

 そして二人は、ポップの家の前を目指して歩き出した。