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天国の扉

猫好き男子と大人な部長13

 翌日、仕事が終わった後、架恋は瑞穂と一緒に駅前のショッピングモールまで来ていた。

 前日に、高倉に車で送ってもらったモールだ。

 ショッピングモール内にあるカフェの奥の席にて、向かい合って座る二人。

 アイスティーを注文してから、早速瑞穂が聞いてきた。

「で、話って? どんな話があるんだろうって気になって気になって、午後の間中ずっとそわそわしてたよ~。架恋の方から誘ってくれるの、けっこう珍しいからね」

 瑞穂は待ちきれない様子だ。

 架恋は苦笑すると、やや小さめの声で言う。

「少しだけ声を落としてくれるかな」

「うんうん」

 こころもち耳を架恋の方へ近づけながら、小声で答える瑞穂。

 架恋はその耳に向かって、小さく言った。

「えっと……宮沢君とお付き合いすることになって……」

「ええっ?! マジ?!」

 危惧していたほど大声ではなかったが、それでもそこそこ大きめの声をあげる瑞穂。

 しかし、周りを見回してから、小声に戻って続けた。

 目をキラキラ輝かせながら。

「何か悩み事でもあるのかと思って、心配したよ~。まさかこんな、いい報告だとは思わなかった~。おめでとう! で、どんな経緯で? 架恋から告白したの? ああ、もう……聞きたいことだらけ!」

 嬉しそうに言う瑞穂に、架恋の顔もほころぶ。

 架恋はこれまでのいきさつを瑞穂に話して聞かせた。

 時折、相槌や質問を挟みながら、興味津々の様子で聞き入る瑞穂。

 架恋の説明が終わると、瑞穂が満面の笑みを浮かべて言った。

「そっかぁ~、ホントにおめでとう! よかったね~!」

「瑞穂、宮沢君のことが好きって言ってたのに、祝福してくれるんだ……」

「当たり前じゃん! 確かに好きとは言ったし、別に嘘じゃないんだけど、本気で狙ってたわけじゃないよ。私だって、実現が難しいことくらいちゃんと分かってたからね~。私が欲しいのは、彼氏だよ、彼氏。そりゃ、宮沢君や高倉部長、丸岡君たちみたいなイケメンに憧れてしまうのは、致し方ないことでしょうが」

 丸岡という人は、、架恋たちより3歳ほど年上の、人事部所属の社員だ。

 宮沢や高倉ほど顔立ちが整っているわけではないものの、「かっこいい」か「かっこよくない」かでいえば断然前者の部類に入るため、架恋も噂でその名前だけは聞いたことがあった。

 また、後から聞いた話では、架恋や瑞穂の入社面接の際、面接官の一人を丸岡が務めていたということらしい。

 すると、瑞穂がペロッと舌を出しながら言った。

「じゃあ、昨日の『応援』は無意味だったわけかぁ。宮沢君とお付き合いしているわけだし、部長に対してアタックするわけないしねぇ」

「やっぱり、あのウインクはそういう意味だったんだね」

「気づいてくれてたね、思ったとおり!」

 ここで、注文していたアイスティーが運ばれてきた。

 架恋はこのタイミングで、ついでに昨日のことを瑞穂に話しておくことに。

 風雨が強かったので、高倉に車でこのモールまで送ってもらったことを。

 瑞穂はにこにこしながらも、やや口を尖らせて言った。

「今朝何もそのことについて話してこなかったから、てっきり何事もなかったのかと思ってたら……。うわ~、部長の車の助手席にも座ったのかぁ~。羨ましい~! そして、ずる~い!」

「だって、お断りしにくいでしょ……」

「うんうん、そんな風な申し出を受けて、お断りすると角が立ちそうだよね。……でも、ホントずるすぎる~! どうして、架恋ばっかり! この前、架恋と話してた『私の願望』のうち、二つも架恋が叶えちゃってるじゃん! 『宮沢君とお付き合いすること』と『部長の車の助手席に座ること』の二つ!」

 架恋は「そういえば、そんなことを瑞穂が言ってたっけ」と思い返す。

 瑞穂は相変わらず、愉しげに笑いながら、おどけた調子で続けた。

「でも、さすが架恋だ~。宮沢君は架恋にあげるよ。……私のものじゃないけど」

「あ、ありがとう……」

 架恋も笑顔で言葉を返す。

 瑞穂はさらに続けた。

「私も頑張らないと!」

「……何だか、上から目線みたいで申し訳ないけど、応援してるよ」

「頑張るよ~! 架恋も宮沢君とのゴールインに向かって頑張れ!」

 笑い合う二人。

 架恋としては、付き合ってまだ間もないということもあり、「修馬との結婚」などということは、まだあまり深くは考えていなかったが。

 でも心のどこかで、「そうなったらいいな」と思ってはいた。

 それから二人は、たわいもない雑談を楽しんだ。