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天国の扉

猫好き男子と大人な部長12

 モールの4階駐車場にて、高倉が車を停めると、架恋が軽く頭を下げて言った。

「部長、本当にありがとうございます! 助かりました!」

「いえいえ、どういたしまして」

 言いつつシートベルトを外す高倉。

 架恋も急いで外すと、車から降りた。

 遠くにある窓から外の様子が少しだけうかがえたが、雨は弱まる気配を見せずに降り続いている。

 時刻が時刻ということもあり、外はかなり薄暗くなってきているようだった。

 駐車場内は、灯りが点けられていたので、外よりはずっと明るかったが。

 架恋に続いて車外へと出た高倉は、架恋がドアを閉めたことを確認してから、車の鍵を閉めて言った。

「では、途中まで一緒に行こうか。確か、このショッピングモールの2階の先が、駅と連絡橋で繋がっていたんだっけ」

「はい、存じ上げております! 運転お疲れ様でした」

「そんなに恐縮しなくてもいいって。もう会社じゃないんだから」

 穏やかな笑みを浮かべてそう言うと、高倉はゆっくりとエスカレーターの方向へ歩き始めながら、言葉を続けた。

「すぐそこにエスカレーターがあるね。それじゃ、行こう」

「はい!」

 そして二人はガラス張りの自動ドアを抜けると、ショッピングモール内へと入っていった。

 エスカレーターで2階まで来たとき、架恋の前で乗っていた高倉が降りた。

 そして、何歩か歩いてから振り返り、架恋を待っている。

 続いてエスカレーターを降りた架恋に向かい、高倉が言った。

「それじゃ、私はこれから3階まで戻るよ。気をつけて帰ってね」

「え? わざわざ私のために、2階でいったん降りてくださったんですか?!」

「うん、見送ろうと思って。大した距離じゃないからね」

 架恋は、高倉の至れり尽くせりの心遣いに感激して言った。

「本当に色々とお心遣い恐縮です! ありがとうございました! それでは、明日またお目にかかります」

「いえいえ。また明日ね。お気をつけて」

「はい! 部長もお気をつけて!」

 頭を下げる架恋に向かって、笑顔で手を振った後、高倉は反対側にある上りのエスカレーターを目指して歩いていった。

 高倉の姿が見えなくなるまで、立ち止まったまま見送る架恋。

 そして、高倉が行ったことを確認してから、架恋は連絡橋のある方向へと歩き出した。

 そのときだ―――。

 目の前にある雑貨屋に、見覚えのある女性が立っているのに架恋は気づいた。

 架恋と同じくらいの年恰好のその女性は、架恋と同じくスーツを着ている。

 相手の方は、全く架恋に気づいていないようで、商品を真剣な表情で眺めている様子だ。

 架恋は必死で記憶を探ると、思い出した。

 今まで何度か開かれている、同期が集まる飲み会にて、その女性を見かけたことがあったことを。

 ただ、会話を交わしたことは一度もなかったように、架恋は記憶していた。

 それでも架恋の記憶に残ったのには理由がある。

 その女性が明るくて活発な様子を見せており、愉しげに笑う様子が印象的だったからというのが一つ目の理由で、もう一つは、その女性が美人だったからだった。

 つまり、全く面識がないということなので、挨拶はしづらく感じる架恋。

 もし挨拶したところで、相手から「あなた、誰?」と言われかねないと思ったので。

 そういうわけで、架恋はきまり悪げにそそくさと、雑貨屋の前を通り過ぎた。

 どうやら、相手は気づかないままだったらしく、呼び止められることもなかった架恋。

 架恋はそのまま足早に、連絡橋へと向かった。