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天国の扉

猫好き男子と大人な部長11

 高倉に先導され、駐車場を歩く架恋。

 駐車場の奥の方に停められていた黒い車が、高倉のものらしい。

 遠隔操作で鍵を開けたあと、高倉はサッと助手席に駆け寄り、架恋のためにドアを開けれくれた。

 助手席に乗り込みながら架恋が言う。

「部長、ありがとうございます。何だか、恐縮です」

 架恋が乗り込むのを確認した後、「いえいえ」と言ってから、高倉は優しくドアを閉めた。

 そして、運転席側のドアへと回りこみ、高倉も乗り込んでくる。

 架恋は手早くシートベルトを締めた。

 高倉もドアを閉め、密閉された車内で二人っきりになると、少し顔をこわばらせる架恋。

 架恋は内心、修馬の事を考え、「修馬以外の男性と二人っきりになってしまった」という現在の状況に、胸を痛めていた。

 また、幾ら高倉が優しく親切な人だからといって、立場上、架恋の上司だということで、「上司と二人っきりで緊張している」ということも、顔をこわばらせた一因かもしれない。

 運転席に座り、シートベルトを締めたあと、高倉が言った。

「ちょっと待ってね」

 すると、いったん閉めた運転席側のドアを、座ったまま開く高倉。

 高倉はその直後、何度か拍手をしてから、再びドアを閉めた。

 この行動の意味が分からず、心配そうな表情で架恋が尋ねる。

「どうか、なさったんですか?」

「ああ、ごめんごめん。最近ここによく猫が来ていてね。車の下などにいたら危ないから、発進前にこうして大きな音を立てるようにしてるんだよ」

「部長もここに来ている猫ちゃんのこと、ご存知だったんですね! 私もついこの間、知りまして」

「私も知ったのは、ほんの数週間前だよ」

 微笑みながら高倉は続ける。

 エンジンをかけながら。

「茶色い子だよね。飼い猫なのかも知れないけど」

「どうやら、飼い猫らしいですよ。私も聞いた話なんですけど」

「へぇ、そうなのか。石橋君も猫好き?」

 車を発進させながら聞く高倉に、頬を緩めて架恋が答える。

「ええ。『も』っておっしゃっているっていうことは、部長も猫がお好きなんですね」

「ははは、バレたか。見ていて癒されるよね。うちでは飼ってないんだけど」

 高倉が猫好きということを聞いても、架恋はあまり驚かなかった。

 普段の温厚で柔和なイメージどおりだったので。

 高倉が続ける。

「もっとも、私は猫だけでなく、犬や他の動物も好きなんだけど」

「あ、私も同じです! 猫もいいですけど、犬も可愛いですよね」

「うんうん。私は小さい頃、実家で犬を飼っていてね。悲しいことに、もう亡くなってしまったけど。そのショックが大きくて、それ以降、飼おうという気は起きていないなぁ」

 駐車場出口へ向かって車を運転する高倉の表情は寂しげだった。

 高倉のこんな表情を見るのは初めての架恋だったが、そんなことよりも、高倉の気持ちが深く伝わってきて、自分も切なくなってくる架恋が言う。

「そんなことがあると、ショックですよね」

「いけない、暗い話をしてしまったね。そういうわけで犬も好きなんだけど、猫も同じく大好きだなぁ」

 いつしか、車は駐車場を出て、大通りへと入っていた。

 外は依然として大雨が降り続いており、ワイパーを駆使しても視界は悪い。

 道行く車たちは激しい水しぶきを上げており、道路にも雨水が溜まっていることを架恋たちに知らせていた。

 高倉が苦笑して言う。

「すごい降りだなぁ」

「こんな中、歩いて帰るのは大変だったと思います。送っていただき、本当にありがとうございます。瑞穂が心配ですね」

「いえいえ。そうだなぁ、探し物は明日にして、倉本君も一緒に送ってあげればよかったね。私はその辺り、気が利かないなぁ」

「そ、そういう意味ではございません! お気を悪くされたら謝ります……!」

「いやいや、こちらもそういう意味じゃないんだよ。こちらこそ、ごめん!」

 顔は真っ直ぐ前に向けて運転しながら、高倉は慌てた様子で謝った。

 高倉のこんな様子も、架恋にとっては初めて見る光景だ。

 架恋は心の中で、「普段あんなに落ち着いている部長もこんな風に慌てることがあるんだなぁ」と意外に思っていた。

 その後は、猫の話や大雨の話などで盛り上がった二人。

 高倉とたまに仕事以外の話もしたことがある架恋だったが、これまではせいぜい1~2分程度のちょっとした時間に過ぎないことだったので、こうして数分以上もの間、雑談することはこれが初めてだった。

 そして、口では言わないものの、「部長って、本当に気さくで話しやすい人だなぁ」と再確認する架恋。

 いつの間にか前方に、駅前にあるショッピングモールの大きな建物が見えてきていた。