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天国の扉

猫好き男子と大人な部長9

 それから数日経ったある平日の午後4時半、架恋は資料室で探し物をしていた。

 外はいつにも増して、激しい雨が降っている。

 資料室の窓を強く叩きつけるほどの大雨だ。

 他の部屋に比べると掃除が行き届いておらず、ほこりっぽい室内にて、架恋は熱心にファイルを探している。

 そんなとき、不意にドアがノックされた。

 架恋が「どうぞ」と答えると、ゆっくりと扉が開く。

 低い声で「失礼します」と言って入ってきたのは、高倉だった。

「部長! お疲れ様です!」

 手を止めて部長の方を向き、架恋が言う。

 普段通りの穏やかな微笑みを浮かべて、高倉が答えた。

「石橋君、ご苦労様。一昨年の領収書などを収めたファイルを探してくれているって聞いて、手伝いに来たよ。ちょうど手が空いてたから」

「そんな……恐縮です。時間がかかってしまい、すみません」

「いえいえ、そんなに気にしないでいいよ。石橋君はこの部屋にまだあまりなじみがないだろうから、少しでも手助けできればと思ってね。終業時間までに、見つけたいね」

「どうも申し訳ございません! お心遣いありがとうございます!」

 柔和な表情で、「気にしないでいいよ」という風に手を振ると、高倉は資料室の奥へと進んだ。

 架恋もそのまま、探し続けることに。

 修馬と付き合う前までは、「高倉部長と部屋で二人っきり」という現在のような状況に、架恋の心はときめいたに違いないが、今となっては高倉に対する気持ちは尊敬のみなので、そういうこともなかった。

 むしろ、恐縮で恐れ多い気持ちの方が優っているようだ。

 すると、1分ほど経ってから、高倉がファイルを1つ手にとって言った。

「やっぱり、どうもこの辺りの棚が怪しいみたいだ。探している物とは違うけど、それらしいファイルがたくさん並んでいるよ」

 架恋は即座に、高倉のもとへと急いで移動する。

 そして、高倉のすぐそばまで行くと、高倉が見せてくれているファイルを覗き込んだ。

 そのファイルの中身は、確かに探しているものと酷似していた。

「本当ですね、さすが部長! 時間を空費してしまって、申し訳ありません」

「いえいえ。石橋君は真面目だし、勤務態度も良いし、本当に助かっているよ。さて、あと一息で見つかると思うから、頑張ろう」

 二人は一緒に、棚に並ぶファイルをチェックしていった。

 5時前になり、ようやく架恋は、目指すファイルを発見した。

「部長、ありがとうございます!」

「いやいや、石橋君が見つけたんじゃないか。私はほとんど手伝いにもなっていなかったよ」

「そんなことはございません。部長がこちらの棚が怪しいとご指摘くださったことと、一緒に手分けして探してくださったことで、見つけることができたのですから。今回はお手数をおかけして申し訳ございませんでした。今後もっと努力いたします」

「そう言ってもらえると、来た甲斐があるよ。もう終業時間も間近だし、部屋に戻って、今日の業務は終了としようか」

「はい!」

 架恋は元気よく答えると、高倉の後に続いて資料室を出た。

 終業時刻が来て、架恋が瑞穂と一緒に帰り支度をしていたときだ。

 不意に高倉が下を向いて何かを見ながら、ボソッと「しまった」と声をあげた。

 思わず、そちらを向く、架恋や瑞穂たち。

 高倉はみんなの視線に気づくと、きまり悪そうに「ああ、こちらの話。みんな、お疲れ様」と言って、再び手元に視線を戻す。

 こころなしか、普段あまり見せたことのないような、困ったような表情をしていた。

 好奇心が強く、怖いもの知らずなところがある瑞穂が、高倉に近づいていって尋ねる。

「部長~。どうしたんですかぁ?」

 架恋も気になっていたので、高倉の方へ視線を向ける。

 高倉が苦笑しながら答えた。

「う~ん、間違ったファイルを持ってきたみたいでね」

 架恋は思わず、高倉と瑞穂のもとへ駆け寄っていって、言った。

「私が間違えてしまったんですね……! 大変、申し訳ございません!」

 深く頭を下げる架恋に、高倉が言う。

「いや、私もあのときは全く気づかなかったんだから、石橋君のミスではないよ。私がしっかりしていれば、あのときに再び探しなおしたわけだからね」

「で、ですが……」

 おろおろする架恋に、瑞穂が言う。

「誰にだってミスはあるよ~。私なんか、もうミスだらけだし」

 すると今度は、高倉が笑顔になって言った。

「ははは、それを言い出すと、私もたまにやらかすなぁ。たとえば、今日のこれとかね」

 そう言ったあと、真顔に戻って高倉が続ける。

「では、君たちは帰っていいよ。後は私に任せておいてね」

「え? 部長、まさか……これから、また探しに……?」

 架恋の質問に、苦笑しながら答える高倉。

「うん、そりゃ今日中に探しておいた方がいいから」

「で、では、私もご一緒いたします。元はといえば、私が間違えたわけですし」

「時間外だし、そこまで気にしなくていいよ。私が何とかするから」

「ご迷惑でなければ、ご一緒させてください。お願いします」

 ミスをどうにか取り返したくなって、架恋は頭を下げた。

 すると、瑞穂が言う。

「じゃあ、私も手伝いますかぁ~」

「でも、瑞穂……。このあと、用事があるって、さっき……」

「まぁ、数分くらい大丈夫だから。さぁ、資料室へ行きましょう。すぐに見つけますよ!」

 元気よく言うと、先陣を切って部屋を出る瑞穂。

 架恋と高倉は顔を見合わせて「またいつものことだ」とばかりにくすくす笑うと、その後に続いた。