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天国の扉

猫好き男子と大人な部長3

 それから三日間、架恋は宮沢にもポップにも会うことはなかった。

 何となく気になって、架恋は帰り際には必ず、駐車場を覗いていたのだが。

 ところが、四日目になって、架恋がいつものように駐車場を覗いてみたところ、そこにポップを撫でる宮沢の姿を見出した。

 表情や仕草には表さないものの、少し嬉しくなる架恋。

 すぐに宮沢も気づいて声をかけてくれたので、架恋も挨拶を返し駆け寄る。

 宮沢が苦笑しながら言った。

「今日もスゴイ雨だねぇ。ポップも元気がなさそうだよ」

「ホントね」

 毛並みのツヤがややなくなっている様子のポップを見つつ、架恋が答える。

 宮沢はポップの背中を嬉しそうに撫でながら言った。

「そうそう。石橋さんは、テレビの猫番組って見てる?」

「あ、うん、幾つか。土曜の『世界の猫待ち顔』は特に好きかな」

「俺と一緒だ! あの番組のDVDが、おととい発売だったの知ってる?」

「え? そうなの?」

 すぐに心惹かれる架恋。

 早口で宮沢が続けた。

「うん。ちなみに、俺は予約購入したよ。でね、テレビでは放送されていない、特典映像もあって、大満足だったなぁ」

「うわぁ、いいなぁ。私も買わなくちゃ」

「そうだ! どんな感じなのか、一度うちへ見に来ない?」

「え?」

 架恋は一瞬戸惑った。

 あまりにもスムーズに、自宅へと誘われたので。

 架恋にとっては、こういう経験はさほど多くなかった上に、今回は相手が王子様のような宮沢ということで、驚きも数倍だった。

 決して嫌ではなく、むしろどちらかというと嬉しいはずの架恋だったが、驚きのせいか、うまく言葉が出てこない。

 すると、そんな架恋を別に怪しむ様子もなく、やや苦笑しながら宮沢が言葉を続けた。

「あまり整理整頓されてない、ボロアパートの一室だから、申し訳ないんだけど……。来たくないってのなら、遠慮なく断ってね。俺、そんなくらいのことで気を悪くしないから」

「あ、いや、行きたくないだなんて、そんなこと思ってないよ。宮沢君が『いい』って言うのなら、是非……」

「じゃあ、決まりだね! 俺は今日でも構わないけど、石橋さんの都合に合わせるよ。今週末も、俺の方は、今のところ予定は入ってないし」

「じゃ、じゃあ、今週の日曜はどうかな?」

「問題ないよ! 連絡先を教えておくね」

「え?」

 架恋は常々思っていたことを、ここで再確認した。

 宮沢に「ちょっとチャラいところがある」ということを。

 やはり噂は本当だったのかも知れない、と思い始める架恋。

 ただ、よくよく考えてみると、「まさか、地味な自分をそんな風に誘ってくれているはずがない」という思いも、架恋の中で渦巻いていた。

 架恋が黙っているのを見て、微笑を引っ込めた宮沢が口を開く。

「ん? 俺なんかと連絡先を交換したくない?」

「そ、そういうわけじゃ……!」

 慌てて否定する架恋は、なし崩し的に、宮沢と連絡先を交換した。

 呆然と自らのスマホを見下ろす架恋。

 多くの女子社員たちが喉から手が出るほど欲しがっている、宮沢の連絡先をあっさりゲットしてしまったわけだから当然だ。

 しかも、週末には自宅に招待までされている状況だった。

 宮沢に他意はないだろうと、架恋にも重々分かってはいたものの、それでも架恋の胸は高鳴っていく。

 常日頃から抱いている、高倉部長への憧れは、「あくまでも憧れであって、恋ではなかったのかな」という気すら、架恋にはしてきていた。

 色々なことを考えている架恋とは対照的に、普段とは少しも変わらぬ口調で、宮沢が再び口を開く。

「それじゃ、日曜、よろしくね。それまでに、しっかり掃除しておくよ」

「そ、そんな……あまり気にしないでね」

「今は散らかってるから、多少気にするって。正直、『今日このまま立ち寄りたい』って言われたらどうしようかと思ってたくらい。まぁ、それはともかく、日曜は猫の映像を多いに楽しもう!」

 元気よく言う宮沢に、架恋も釣られて笑顔になり、「うん」と答えていた。

 架恋としては、猫のDVDが純粋に楽しみだったこともあって、部屋へと誘われた戸惑いはどんどん小さくなっていく。

 いつしか、雨は小降りになっていたようだ。

 眠そうに目をしばたたかせながら、ポップは二人を代わる代わる見つめていた。