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天国の扉

美術教師の羞恥デッサン85(藍里編10)

 数日後の薮下宅―――。

 いつもの部屋に、藍里と薮下の姿があった。

 午前中とは思えぬほど、外は気温が上昇していたが、エアコンはよく効いていて、室内は全く暑いことはない。

 にも関わらず、藪下が例のペットボトルを手に言った。

「エアコンの効いた室内でも、熱中症の危険性はあるそうだ。またこれで、しっかり水分補給をしておいてくれ」

 藍里は「ありがとうございます」と言って、受け取る。

 内心、「このお茶、以前は何だか微妙な味がしたんだけど」と呟きながら。

 そして、キャップを開けて恐る恐る飲み始める。

 すると、前回よりは甘くて飲みやすい味だったので、藍里はついついゴクゴクと喉を鳴らして飲んでしまう。

 その様子を見て、ほくそ笑んでいる薮下の様子には気づきもせずに。

 それから、藪下の指示を受けて、脱衣を開始する藍里。

 無論、ためらう気持ちや恥ずかしさは大きかったものの、今さら逃げ出すという選択肢は既に存在しないので、藍里は従うしかないのだ。

 藍里にとっては幸いなことに、藪下は色々な準備のために、藍里のほうへ背を向けていたため、脱衣シーンを凝視されることはなかった。

 もっとも、そうはいっても、「いつなんどき、振り返られるかもしれない」という不安はあったし、そもそもこの後のデッサンで確実に裸を見られてしまうことに変わりはなかったが。

 服を全て脱ぎ去った藍里は、落ち着かない様子できょろきょろしながら、藪下の指示を待つ。

 そして、どうやら準備を全て終えたらしい薮下が、ここでようやく藍里のほうを向いて言った。

「それではデッサン開始ということにしよう。まずは立ちポーズからお願いしたい」

 藪下はオーソドックスな立ちポーズを指示していく。

 今まで、幾度となくモデルに指示してきたポーズであり、藪下が毎度あまりポーズに拘っていないことを明らかに示している。

 藪下としては、この後モデルにいやらしい行為を働くことができれば、他の点はどうでもよいのだ。

 いまだ、藪下を完全には信じきれていない藍里だったが、今回は「身体に触れない」という誓約書も書いてもらってあるので、幾らか気分がマシだったといえる。

 裸を見られる恥ずかしさには一向に慣れる気配もなかったが。

 今回は本当に藪下は何もせず、あっさりとデッサンは開始されることに。

 ただ自然に立っているだけのポーズなので、身体への負担も比較的少なく、藍里としても「ありがたい」と思っていた。

 ところが、次第に例の薬が牙をむき始め、藍里に襲い掛かっていく。

 前回同様、熱い痺れに急襲され、藍里は驚きと狼狽に身悶えした。

 藪下の熱い視線を、乳房や下腹部に集めながら、藍里は急速に高まっていってしまう。

 身をよじりたい気持ちは山々なのだが、静止することを強いられているので、僅かに身体を揺らす程度のことしかできない。

 エアコンが効いているにも関わらず、藍里の額には汗の玉が光り始めた。

 かすかに呻きながら、藍里はひたすら「早く終わって」と何度も心の中で呟きながら、耐え続ける。

 しかし、薬の効力は絶大で、刻一刻と確実に藍里を追い詰めていった。

 藍里は何度も心が折れそうになり、大きく身体を揺らしてしまう。

 そのたびに持ち直してはいたのだが、限界はすぐ近くまでやってきていた。

 そんなとき―――。

 ふいにインターホンが玄関の方角から聞こえ、ビクッとする藍里。

 早耶香のデッサン時に同じようなことが起きたときと同じく、藪下は驚く様子も見せず平然とした様子だ。

 藪下は「ああ、ちょっとすまん」とだけ言うと、部屋を出て行く。

 困惑する藍里を残して。

 そして数秒後、戻ってきた藪下の後ろに、別の人物がいた。

 当然ながら、びっくり仰天した藍里は大慌てで両手を使って胸や下腹部を隠す。

 新入りのその人物は、サッカー部所属の水島だった。

 未桜の二度目のデッサン時に、未桜と薮下の情交を観戦した男子生徒だ。

 未桜のデッサン終了後に、二人が話し合う約束をしていたはずだが、その話し合いの結果、今回の計画に水島が参加するということで話がまとまったのだった。

 藍里は半ばパニック状態に陥ってしまう。

 なぜなら、1年生の時、藍里と水島は同じクラスだったので、言わば顔見知りだったわけだ。

 しかも、水島は、藍里の彼氏である光範とも仲が良く、必然的に藍里と水島が顔を合わせることは少なくなかったという事情もある。

 そんな知り合いに、一糸まとわぬ裸を、一瞬とはいえ見られてしまったのだから、藍里が恐慌をきたすのも無理はないだろう。

 水島は大げさに驚いた演技を始めたが、冷静な人が見れば、明らかにわざとらしく、演技だとすぐに分かるはずだ。

 しかし、藍里は今、全く冷静ではなかったので、水島の様子が演技だと気づくことはなかった。

 そんな藍里に向かって、藪下が落ち着いた声色で、まるで当然のことのように言う。

「1年H組のときに同じクラスだったから、覚えているかもしれないが、こちらは水島君だ。彼も展覧会に出品する予定で、ちょうど私と同じ題材を描くようだったから、呼んでみた」