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天国の扉

ちょいS部長の羞恥レッスン57

 午後7時前、二人は山道を歩いていた。

 さすがに日中よりは気温が下がっているはずなのだが、依然として蒸し暑く感じる璃子。

 それは、藤崎と一緒にひたすら山道を歩き続けているからかもしれなかった。

 花火がよく見えそうな場所はどこも黒山の人だかりだったが、二人が歩く上り坂には人影もまばらだ。

 藤崎によると、この先に穴場スポットがあるらしい。

 もっとも、「最近はネットや口コミのせいで、せっかくの穴場も一瞬で広まってしまうから、今年から人だかりができていても不思議ではない」と当の藤崎が言っており、穴場である保証はどこにもなかったが。

 下に下着を着けていないことにより、璃子はここまでずっと落ち着かない気持ちでいた。

 万が一にも浴衣がはだけてしまうと、周囲に全部見られてしまう状態なので、当然だろう。

 そのため、浴衣に草履という格好で上り坂を歩く大変さすらほとんど気にならず、璃子は心の中で「ブラもショーツも着けてないと、スースーして落ちつかないなぁ。早く到着しないかなぁ」と何度も思っていた。

「着いた。この先だ」

 藤崎が言った瞬間だった―――。

 ドーンという大きな音が響き渡る。

 舗装すらされていない夜道を藤崎と歩きながら、璃子が言った。

「始まったみたいですね」

「今のは試し打ちみたいなものだろう。どうやら間に合ったみたいだな」

 いつもどおり冷静な口調でそう言うと、藤崎は璃子の手をグッと握って引き寄せる。

 自然な様子で手を繋がれたような格好となり、璃子の心は大きく跳ねた。

 心の中で「今までいっぱいエッチとか、色んなプレイとかをやってきてるのに、今さら手を繋いだだけで、私はどうして動揺してるんだろう」と自分で自分に呆れながらも、胸の鼓動はいつになく速いままだ。

 藤崎はそんな璃子にはお構いなしに、さらに細くなった道へと入っていく。

 そして数十秒後、二人は見晴らしの良い場所に出た。

 さっきまでそこかしこに見られた木々もこの場所には少なく、上には満天の星空が広がっている。

 さらに好都合なことには、本当に穴場らしく、先客もいなかった。

 先ほど歩いてきた道でも、ほとんど人とすれ違うことはなかったので、当然かもしれない。

 電灯は少し離れたところにあるため、璃子にはかなり暗く感じられた。

 しかしながらよくよく考えてみると、あまり明るすぎては、花火が綺麗に見えない可能性があることに思い当たり、「このぐらいの暗さでちょうどいいのかも」と思い直す璃子。

 璃子は内心、「もしかしたら、花火をあまりしっかりと見られない場所なんじゃないかな」という心配を抱いていたが、僅か数秒後にそれは杞憂だと分かった。

 花火が打ちあがる予定の方角の空を藤崎と共に眺めていると、突然花火が上がり、想像していたよりも大きく感じられたからだ。

 思わず、「わ~」と歓声をあげる璃子。

 やや遅れてドーンと鳴り響く音も、大きく聞こえる。

 一心に夜空を見上げる璃子のすぐ横にて、藤崎はショルダーバッグからレジャーシートを取り出すと、草むらの上へ広げて敷きながら言った。

「1時間半も立ちっぱなしでは疲れるから、ここに座れ」

「ありがとうございます」

 早くもシートにどっかりと座り込んでいる藤崎の隣に、璃子はそっと腰掛ける。

 すると今度は、バッグから小さなスプレーのようなものを取り出しながら藤崎が言った。

「虫がいそうだから、この虫除けスプレーを少し吹きかけておく」

「はい」

 肌を露出している部分に、黙ってスプレーを吹きかけられながら、璃子は内心「高虎さんって、本当にそつがないなぁ」と思っていた。

 藤崎が自分の身体にもスプレーを吹きかけ終えたちょうどそのとき、真夏の夜空をひときわ鋭い閃光が走る。

 ここまで打ち上げられた中では、最も大きな花火が上がったのだった。

 まもなく、その花火に巻けずとも劣らない大きさの花火たちが、まるで競い合うかのように立て続けに夜空を明るく照らし、少し遅れてそれぞれの音が響き渡る。

 迫力ある光景を、璃子は目を輝かせながら見入っていた。