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天国の扉

ちょいS部長の羞恥レッスン51

 それからの日々は、特に変わった出来事もなく過ぎ去っていった。

 しかしながら、カレンダーを眺めるたびに、「8月11日」の日付が気になってくる璃子。

 藤崎との関係が終わる日だ。

 関係開始当初は、心のどこかに「早くこの日付が来てほしい」という気持ちが常にあった璃子だったが、どういう心境の変化か、今ではそんな気持ちは微塵もない。

 それどころか、璃子としては認めたくなかったが、むしろ「出来れば来てほしくない」という気持ちすら、心のどこかに芽生えていた。

 それと同時に、あの女性のことも、璃子の心を悩ませる。

 璃子は心の中で「きっと高虎さんの恋人なんだろうけど、高虎さんは何とも思わないのかな。恋人がいるのに、私ともこういう関係を持って」と不思議に思っていた。

 世の中色々な考え方があると常々考えているので、璃子は決して藤崎を軽蔑していたわけではない。

 しかし、「恋人の方が、セフレよりも立場が上」という考えを持つ璃子にとっては、何となくあの女性に自分が負けてしまった気がしていて、悲しい気持ちはあった。

 もっとも、そういうことを考慮せずとも、「私よりあの女性の方が、ルックスもスタイルもいい。あの人は本当に高虎さんにお似合い」ということは、とっくに分かっていたが。

 この週も、バイブによるプレイを2度、資料室でのプレイと性交を1度、藤崎に実行されたが、今の璃子には「嫌で嫌でたまらない」というものでは既になくなっている。

 羞恥プレイや性交のたび、璃子自身が当惑するほどに肉体は情欲の虜(とりこ)となっていたのだ。

 あの女性のことを思い出し、時々悲しく寂しい気持ちに襲われつつも。

 そしてあっという間に、8月7日を迎えた。

 この日は、同期の飲み会が開催される日だ。

 こういった飲み会は定期的に開かれており、部署の垣根を越えて同期社員たちが親睦を深めるのに大いに役立っている。

 実は、璃子が友則との距離を急速に縮めることができたのも、こういう飲み会のお陰だった。

 あらかじめ藤崎に、「帰りが遅くなるかもしれない」とだけ伝えておいた璃子。

 璃子は決してお酒に弱い体質ではなかったが、それでもなるべくいつも早めに引き上げるようにはしていたので、今回もさほど遅くはならないと思ってはいたのだが、あくまで念のためだ。

 友則と顔を合わせることだけが、気まずくなりそうで気がかりな璃子ではあったが、彩乃や他の友人たちも参加するこの飲み会を今さらキャンセルすることなど出来るはずがなかった。

 夕方6時半、以前も利用したことのある店にて、飲み会が始まった。

 この会が行われるときは毎回、一室を借り切ることになっている。

 そのお陰で、さすがに大騒ぎこそ出来ないものの、一同はかなりリラックスしてワイワイ楽しむことができた。

 早速、彩乃と一緒に、営業部や人事部の女子社員たちと仲良くおしゃべりを始めた璃子。

 友則のことは終始気になってはいたが、璃子にとっては幸いなことに、友則は人気者なので色々なテーブルに引っ張りだこなのだ。

 それでも、時折友則がチラチラこちらを見ていることを璃子も気づいている。

 だが、「彼氏がいる」と知っているせいか、友則は一度も璃子に近づいてくることはなかった。

 ところが―――。

 しばらくしてお手洗いへ行った璃子が部屋に戻る途中、廊下でばったり友則と鉢合わせしてしまった。

 ドキッとして硬直する璃子に対し、友則は気さくな笑顔と共に言う。

「会うのは久しぶりだな。どう? 楽しんでる?」

「あ、うん、もちろん。だけど、あまり遅くなると嫌だから、もうすぐ私は帰るね。多分、彩乃も一緒に」

「えー、そうなのか。早めに聞いておけてよかった。それなら俺も一緒に帰る。夜道は危ないし送っていくよ」

 当然ながら璃子は慌てた。

 今は藤崎宅で同棲同然の生活をしているので、それがバレると非常にまずい。

 かと言って、元々住んでいたアパートまで送ってもらっても、電気や水道などライフラインを全て止めてあるので、不便極まりないのだ。

 悩む璃子の返事を待たずに友則が言った。

「何か変な意図があるんじゃないかと勘ぐられてるのかもしれないけど、そういうわけじゃ絶対にないよ。たとえ、駅から自宅までの短い距離とはいえ、酔っているときに一人で夜道を帰っては危ないから。俺を信じてくれ」

「う、うん」

 気(け)おされる形で頷く璃子。

 もっとも、璃子がもし藤崎と恋人関係にあったならば、きっと断っていたはずだった。

 しかし実際、藤崎とはそういう関係ではなく、さらに言うと、藤崎が別の女性と二人っきりの場面を先日目撃したことも、璃子のこの決定に影響していたようだ。

 心の中で「いったんあのアパートに行って、友則君を帰してから、こっそり高虎さんのおうちへ帰らないと。面倒だけど、終電には多分間に合うはず」と呟く璃子。

 友則は人懐っこい笑みを浮かべると、「じゃあ、また後で」と璃子に言ってから、お手洗いの方へ歩いていった。