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天国の扉

ちょいS部長の羞恥レッスン50

 思わず「高虎さんかな?」と思ってスマホをすぐに取り上げて見てみると、そこに出ているのは「友則君」の文字だ。

 一人で勝手にモヤモヤしていた璃子にとっては、相手が誰であろうと、電話をかけてくれるのはありがたかった。

 今は何もせず一人で過ごしていると、さっきのことばかり考えて気分が落ち込んでしまうので。

 電話に出て挨拶を交わした後、友則が単刀直入に言ってきた。

「次の金曜に、同期の飲み会があるの、聞いてる?」

 璃子は内心「そういえば、彩乃がそんなことを言ってたっけ」と思い出す。

「そんな話を聞いたけど、日取りも決まったんだね」

「うんうん。で、参加するの?」

「うん、何も用事ができなければ、多分参加するよ。彩乃もきっと参加するだろうし」

「了解! いや、璃子が不参加なら俺もパスでもいいかと思ってるから確認した。身勝手でごめん」

 電話越しに屈託なく笑う友則の声を聞いていると、璃子は友則と付き合っていた頃を自然と思い出していた。

 あの幸せな日々を。

 そしてやはり、友則は璃子のことを諦めずに、ずっと想い続けてくれているようだ。

 そのことは璃子にも嬉しかったのだが、藤崎との関係が続く間は誰とも付き合わないという璃子の決心は全く揺らがなかった。

 璃子が言葉を探していると、友則はそんな沈黙を全く気にする様子もなく言葉を続ける。

「それから、11日には花火大会があるの、知ってる?」

 藤崎との関係が終了する日付を言い出され、ドキッとする璃子。

 平静を装って「うん」と答えると、「まさか、誘ってくれるのかな」という璃子の予想どおりの言葉を友則が言ってきた。

「一緒に行きたいんだけど、やっぱ彼氏と行くんだよな?」

「うん」

 申し訳なさを感じながら、璃子は答える。

「だろうね、ごめん。もしかすると『彼氏がいるって言ってるのに、誘おうとするなんて最低』って思ったかもしれないけど、さすがに俺も『璃子と二人っきりで行きたい』って思って声をかけるほど馬鹿じゃないよ。もし万が一、璃子が彼氏と行かないようなら、同僚とか友達を連れて大勢で行こうと思って誘っただけだから、勘違いしないでくれよ」

 内心「友則君に対して、そんな失礼なことを私が思うはずないのに」と思い、少し苦笑しながら「うん」と答える璃子。

 それから挨拶を交わして、友則との電話は終わった。

 友則との電話のお陰で、少しだけ気分が晴れた璃子は、化粧を落としたり着替えたりしながら藤崎を待った。

 今日の夕飯は、藤崎が弁当か何かを買ってきてくれることになっていたのだ。

 今になっても、そうして藤崎に色々と奢ってもらうことに対して、璃子は物凄く申し訳なく思っていた。

 実際、何度か「食費だけでも、一部支払わせてください」と藤崎に申し出たことはあったのだが、藤崎は「気にするな」の一点張りで、受け取ってくれる気配もなかったのだ。

 藤崎がそう言っているからといって、図々しく当然のように奢ってもらうような気持ちには、璃子にはなれなかった。

 しばらくして藤崎が帰宅した。

 努めて普段どおりに接することに気を配りながら、璃子は「おかえりなさい」と挨拶をする。

 それから二人で弁当を食べた。

 夕飯の後片付けや皿洗いを終えると、藤崎が璃子を見ながら怪訝そうな表情で言った。

「どうした? 俺に何か言いたいことでもあるのか?」

 心を見透かされたように感じ、ギョッとする璃子。

 璃子が答えるより早く、藤崎がさらに言う。

「言いたいことがあるなら、遠慮なく言え。黙って不機嫌そうにされては、こちらもあまり気分が良くない」

 璃子は内心「普段どおりにしているつもりなのに、どうして何か感づかれたんだろう」と不思議に思いつつも、別に不機嫌になっているつもりはないので反論する。

「別に普段どおりです。私の態度に、何か気に障るものがあったのなら、ごめんなさい」

「ふん、大方このことで機嫌を損ねてるんだろう」

 璃子が不機嫌だと決め付けているような言い方をする藤崎はかがみ込んで、バッグの中から通販カタログを取り出した。

 きょとんとする璃子に向かって、藤崎が言う。

「この中から欲しい服を選べ。フットサルの試合に出たときの褒美だ。俺が忘れてたと思って、怒ってるんだろう」

 璃子は「そういえば、そうだった!」とはっきり思い出した。

「別に全然怒ってないんですが、買っていただけるのでしたら、是非……お願いします」

 率直に言いながら、頬を緩ませてしまう璃子。

 藤崎はカタログを璃子に手渡しながら言った。

「もう機嫌が直ったようだな。ところで、明日の予定は何かあるのか?」

「特にありません」

 今度は何だろうと思って答える璃子に、藤崎がバッグからさらに何かを取り出して言った。

「そうか、それならサッカーを見に行くぞ」

 藤崎の手の上には、2枚のチケットがあった。

 璃子が覗き込むと、明日行われるJリーグの試合のものらしい。

 しかも璃子が応援している、地元クラブのホームスタジアムでの試合だった。

 そのクラブチームは現在、J2(2部リーグ)に所属しており、昇格プレーオフ進出圏内の6位に浮上したばかりだったので、自然と応援にも熱が入っていた璃子は大喜びだ。

「明日の試合、チケットを取ってらっしゃったんですね! でも……私の分まで、すみません」

「気にするな。この前、一緒に見に行くと言ってたことを思い出しただけだ」

 藤崎はいつもどおりぶっきらぼうにそう言ってチケットをしまい込むと、「持ち帰った仕事がある」とだけ言い残して書斎へ向かった。

 結局璃子は藤崎に、あの女性のことを聞けなかった。

 もちろん、璃子自身「そんなことを踏み込んで聞く権利も勇気も、自分にはない」と始めから分かっていたのだが。

 璃子の心にはモヤモヤだけが残った。

 それでも、「モヤモヤした気持ちになるのがおかしい。私が立場をわきまえていないだけ」と自分に言い聞かせて、聞きたい思いを封じ込める璃子。

 璃子は心の中で「私は恋人ではなく、セフレなんだから」と何度も何度も繰り返していた。

 翌日、璃子と藤崎は市内にあるスタジアムにて、サッカー観戦を楽しんだ。

 残念ながら、応援していた地元クラブは敗れたものの、他会場の結果により6位をキープしたらしい。

 試合結果は残念だったものの、璃子は久々の現地観戦を思う存分楽しんだ。

 あの女性のことは気になったが、藤崎から聞き出すことは自分には不可能だと分かっていたので、璃子は気にしないように努めるしかなかった。