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天国の扉

ちょいS部長の羞恥レッスン49

 そして土曜日―――。

 彩乃と一緒にデパートや映画館などを回り、璃子は思う存分休日を満喫した。

 楽しい時間はあっという間に過ぎ去り、いつしか時刻は午後5時を回っている。

 8月に入ったばかりで、夏真っ盛りのため、この時間になってもあまり夕方の気配はない。

 帰りの電車に一緒に乗り込んだ二人だったが、彩乃の家の最寄り駅へ先に到着する運びとなっており、「またあさって」と言って元気に手を振りながら一足先に彩乃が下車していった。

 笑顔で手を振り返し、見送る璃子。

 それから十数分後、やっと目的の駅へ電車が到着した。

 この駅は自宅の最寄り駅ではなく、藤崎宅の最寄り駅だ。

 ホームへと降りた璃子は、大勢の人で賑わう構内を足早に移動し、改札を抜けて駅前へと出た。

 駅前広場の時計台を見上げると、既に5時半を回っている。

 事前に藤崎には「6時半までには帰宅する」と伝えておいたことを思い出す璃子。

 璃子は心の中で、「そういえばリップクリームとか、色々と買いたいものがあったっけ。駅前のモールでちょっとだけ買い物をしてから帰ろっと。まだ十分に時間はあるから」と呟く。

 璃子はゆっくりと、駅前ショッピングモールの方向へと歩みを進めた。

 そして約15分後、モールにて買い物を済ませ、エスカレーターに乗った璃子。

 しかし、思わぬ光景を目にして、驚愕のあまり固まってしまった。

 数十メートル前方に見えている出入り口ドアへ向かって、女性と一緒に歩いている藤崎の姿を見つけたからだ。

 藤崎と並んで歩いているその女性の顔は、璃子がいる角度からは見えない。

 璃子がエスカレーターから降りるより先に、二人の姿はドアの先へと消えてしまった。

 しばし唖然としていた璃子だったが、エスカレーターを降りた瞬間ハッとする。

 自分を突き動かすものが、好奇心なのか何なのか分からなかったが、ともかく璃子はドアへと急いだ。

 そして外へ飛び出すと、辺りをきょろきょろ見回す。

 駅の改札方面へ向かって歩いている藤崎と女性の後姿を、璃子はすぐに見つけることができた。

 二人は相変わらず並んで歩いている。

 女性の隣を歩く藤崎の表情は笑顔でこそなかったものの、かなり柔和でリラックスしていることが璃子にもうかがえた。

 フットサルの時など、何度か璃子も見たことがある表情だ。

 璃子は内心「高虎さんがあんな表情をするなんて、きっとあの女性は恋人に違いない」と確信する。

 そして、今度は女性をじっくり観察する璃子。

 璃子が見ることができたのは、女性の横顔と後姿だけだったが、それだけ見るだけで、女性がかなりの美人であることと、スタイルが良いことがはっきり分かった。

 しかもただ美しいというだけではなく、容貌に知性と落ち着きを感じさせる美人だ。

 また、どことなく「気が強そう」という印象を璃子は抱いた。

 二人は本当にお似合いのカップルに、璃子の目には映る。

 璃子が呆然と見つめているうちに、いつの間にか二人は人混みの中に紛れて、姿が見えなくなってしまった。

 一人立ち尽くしていた璃子は、再びハッと我に返る。

 そして気づいたことは、自分がショックを受けていることだった。

 でもそこで璃子は、「どうして私がショックを受けなくちゃいけないんだろうか」と、ふと不思議に思う。

 よくよく考えてみると、藤崎にもし恋人が出来たとしても、セフレに過ぎない存在の璃子に報告する義務など一切ないのだ。

 なので、「藤崎が自分を裏切った」などという気は一切しない璃子。

 人通りが絶えない歩道に、一人ポツンと立ち続けながら、璃子は心の中で「それなのに……この切なさは何なの? どうして私は泣きそうになってるんだろう」と自問自答していた。

 二人の後を追う理由もなく、そんな勇気も持たない璃子は、とぼとぼと藤崎宅を目指して歩き出す。

 先ほど見た綺麗な女性のことが、璃子の脳裏にこびりついて離れなかった。

 藤崎の家へ帰りついた璃子は、あらかじめ渡されていた合鍵を使って中に入る。

 合鍵をあっさり渡してもらえたことにも、藤崎の自分への信頼を感じていた璃子だったが、「きっとあの女性にも既に合鍵を渡したか、あるいは今後渡すに違いない」という気がしていた。

 そこで初めて、自分がなぜかあの女性に嫉妬していることに気づく璃子。

 嫉妬する理由などどこにも存在しないのは、璃子本人にもはっきり分かっていたのだが。

 璃子は心ひそかに「セフレの分際で、私は高虎さんを束縛したいと思っているのかな。私たちの関係がセフレである以上、高虎さんが本命の恋人さんを作っても、私は文句を言える立場ではないのに。何を考えてるんだろう、私は」と思い、少し自分に呆れてしまった。

 化粧も落とさず着替えもせず、リビングで考え事を続ける璃子のを心は一向に晴れない。

 すると突然、スマホが音を立てたので璃子はドキッとした。