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天国の扉

ちょいS部長の羞恥レッスン29

 ショッピングモールにて昼食もとってから帰宅した二人。

 するとまもなく、藤崎は「人と会う」とだけ言い残して、今度は一人で再び出て行った。

 一人残された璃子は、特に何の用事もないので、彩乃に電話することに。

 幸い、彩乃にも特に用事はなかったようで、すぐに電話に出てくれた。

 しばらく、たわいもない話をした後、不意に彩乃が尋ねてくる。

「ところで、私と長話してていいの? 部長とデートは? 会ったりしないの?」

 心の中で「さっきデートといえなくもない外出をしたところです。しかも同棲してます」と呟く璃子だが、口に出す答えは当然ながら全く違うものだ。

「今日は何だか用事があるみたい。明日はもしかしたら、デートするかも」

 無難に、決して嘘ではないことを言う璃子。

「おぉ、ラブラブじゃん! そういえばもうすぐ、同期の飲み会があるみたいだね。藤崎部長とお付き合いしている今の璃子なら、友則君とまた再会してももう気まずさはないでしょ。よかったね!」

 彩乃の言う「同期の飲み会」とは、同期入社の社員の多くが参加する規模の大きいものだ。

 部署の垣根を越えて親睦を深める意図で、定期的に開催されており、当然ながら営業部所属の友則も毎回参加している。

 璃子は再び心の中で「気まずさ大あり。この前の、友則君からの電話も気になるし」と呟いた。

 藤崎との今の関係を、8月11日以前に解消できるはずがないと分かっている璃子にとっては、幾ら友則がああいうことを言ってくれたとはいえ、その気持ちに応えることなど出来ないのだが。

 璃子が数秒間無言になったので、彩乃が言葉を続ける。

「あ、元彼っていう事実は変わらないんだから、今でも多少の気まずさはあるか~。ごめん」

「え、あ、いや……私も以前ほどは、気にしてないよ」

「やっぱり部長とラブラブなんだなぁ。羨ましいぞ~。で、普段の部長、どんな様子なのか教えて~」

 藤崎の話になると、「余計なことを言えない」ということで、気を引き締めないといけなくなる璃子。

 どうにか無難に切り抜けようと思って言った。

「う~ん、職場とあまり変わらないよ。口数が多いほうでもないし」

「それから、それから?」

 電話越しでも、彩乃の好奇心旺盛さがいつも通りはっきり分かるので、璃子は苦笑して言う。

「まだ付き合い始めて日が浅いから、よく分からないよ~」

「それもそうだね。突っ込んで聞いてごめんごめん」

 素直に謝る彩乃は、最近観た映画のことへと話題を変える。

 その後は元通り、たわいもない雑談が続いていった。

 夕方5時過ぎ、帰宅した藤崎はすぐさま夕食の準備に取り掛かった。

 今回はどうやら、外食はしないらしい。

 料理が苦手ではない璃子も手伝い、カレーが出来上がると二人で一緒に食べた。

 璃子が一口食べて「美味しい」と感想を言ったところ、璃子の予想通り、藤崎の答えは「そうか」だ。

 ところが、しばらくすると、珍しく藤崎のほうから話しかけてきた。

「皿洗いを済ませてからコーヒーをいれる。その後、また俺の指示に従え」

 藤崎の口から出た「指示」という言葉に、ビクッと反応する璃子。

 この言葉により、「また何かのプレイをされるんだ」と分かったからだ。

 しかし断れない璃子は「はい」と小さく答える。

 その後は、藤崎の指示のことばかり気になったので、璃子はほとんどカレーの味を楽しめなくなってしまった。

 皿洗いが終わったあと、藤崎がコップを水でゆすぎながら、強い口調で言う。

「俺の許可が出るまで、この部屋から出るなよ」

 意味が分からないながらも、璃子は「はい」と答える。

 すると藤崎は、テレビの前で座って待つよう璃子に指示を出してから、コーヒーをいれる準備を始めた。

 やがて、コーヒーは出来上がったようで、藤崎が二つのコップを手に、璃子の方へと近づいてくる。

「ありがとうございます」

 璃子はそう言うと、コップを受け取り、コーヒーに口をつけた。

 腰を下ろした藤崎も、同じように口をつける。

 普段ほとんど飲まないため、コーヒーには全く詳しくない璃子だったが、香りも味も良いように感じられた。

「すごく、美味しいです」

 お世辞ではなく、そう言う璃子。

 藤崎の答えは、相変わらずの「そうか」だった。