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天国の扉

ちょいS部長の羞恥レッスン26

 翌日は特に変わったこともなく、仕事を終えて夕食をとった後、一緒に帰宅した二人。

 前日と同じように、職場でかなり忙しそうな様子を見せていた藤崎は、いつにも増して口数が少なかった。

 そして、藤崎はさらに仕事を抱えているらしく、早々と一人書斎へ入る。

 リビングで一人になった璃子は、テレビをしばらく見ていたが、不意にスマホの着信音が鳴った。

「彩乃かな」などと思いながら、すぐに手にとって見てみると、そこに「友則君」の文字を見て驚く璃子。

 破局の際は、喧嘩別れのような形になったとはいえ、友則の性格を熟知している璃子は「お互い連絡することはないだろうし、着信拒否などは必要ないかな」と思い、そのまま放置していたのだ。

 実際、今日まで友則から電話がかかってきたことは一度もなかった。

 なので一瞬目を疑う璃子だったが、友則からの着信であることは間違いない。

 もちろん、「今さら何の用だろう」という不審に思う気持ちは大きかったものの、「着信があるのに、無視する」ようなことができない性格の璃子は、すぐさま電話に出ることに。

「もしもし、璃子?」

 璃子が発した「もしもし」の直後に尋ねてくる友則。

 動揺しつつも、璃子が尋ね返した。

「うん……。どうしたの?」

「いや、えっと……元気でやってるかなって」

「うん、割と元気だよ」

 友則が電話してきた意図が分からず困惑する璃子。

 かと言って、友則にはもはやマイナスの感情を抱いていないため、すげない態度をとる気にもなれず、意図を向こうから話してくれるのを待つしかなかった。

 友則はやや口ごもった後、再び尋ねてくる。

「璃子は……もう次の彼氏とか……できた?」

 予想外の質問に、璃子はますます当惑する。

 しかし、すぐに藤崎の事を思い浮かべ、「恋人ってことにしておくんだった」と思い出して言った。

「うん、一応」

 璃子が「一応」と付け加えた理由は、「彼氏がいる」ということを友則にもしっかり知ってもらう一方で、嘘をつくことを避けるためだ。

 実際、藤崎は璃子の彼氏ではないのだから、「うん」だけだと、友則を騙していることになるので、璃子にとっては嫌だったといえる。

 実のところ、どっちみち騙していることに変わりはないのだが、それでも璃子の感じる後ろめたさは少しは軽減された。

「やっぱり、そうか……」

 鈍感な璃子でも気づくほど、友則の声のトーンがはっきりと落ちた。

 そして、「まさか、ヨリを戻そうと思って電話してくれたのかな」という気がしてくる璃子。

 沈黙が数秒続いたので、今度は璃子が尋ねた。

「友則君は?」

 彩乃から噂話として「最近また彼女と別れた」という情報は聞いていたが、あくまでも噂話は噂話なので、信頼度で言うと「本人の口から聞く」に越したことはないので、尋ねてみたわけだ。

「今はフリー」

 そう素っ気ない口調で答えた友則は、大きな溜め息と共に続けた。

「あ~あ、璃子にもう1回だけやり直すチャンスを貰いたかったのになぁ……」

「え?」

 そういうことかなと薄々感づいてはいた璃子だったが、実際に言われてみると驚きを隠せない。

「突然、電話してびっくりさせたよな、ごめん。だけど……」

 そこで言葉を切る友則。

 璃子はドキドキしながらも、黙って続きを待った。

「こういうことを言うの、自分でもどうかと思うけど……それでも知っておいてほしいから、言う! もし、璃子が次またフリーになったら、璃子さえよかったら、もう1度だけ俺にチャンスをくれると嬉しい」

 友則と別れた直後は特に「ヨリを戻したい」と強く思っていた璃子は、現在でこそ多少その気持ちが落ち着いてはいたものの、友則のこの言葉を受けて呆然としてしまう。

 友則の方から再びこうして「ヨリを戻そう」と言ってくれることは璃子にとって、一時は夢にまで見たほどのことなのだ。

 混乱しつつも、ふと藤崎の事を思い浮かべる璃子。

 いくら「恋人ではなくセフレ」だといっても、こんな状態で友則とヨリを戻すことは璃子にはできない。

 そんなことをすると、「二人をどちらも裏切ることになる」と思えるからだ。

 頭がうまく整理できず、一言も言葉が出てこない璃子に向かって、優しい口調で友則が続ける。

「今度は困らせてしまったな。ホント、ごめん。そのことだけ、伝えたかった。それじゃ、また」

 言い終わった後も、藤崎のように一方的に電話を切らない友則。

 動揺を隠し切れないかすれた声で「うん、また」と璃子が言ったのを聞いてから、友則は電話を切った。