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天国の扉

ちょいS部長の羞恥レッスン23

 支度を全て終え、藤崎が作ってくれた朝食を食べた璃子は、皿洗いなどは率先して手伝った。

 藤崎は、家事については何一つ命令してこないものの、「何もしないのは申し訳ない」という気持ちが璃子にはあったので。

 皿洗いを終えると、藤崎から「ありがとう」と声をかけられたので、驚きと共に嬉しくなる璃子。

 藤崎が仕事上のことで部下を褒めるときはいつも「よくやった」「ご苦労」といった言葉を使っていたので、少なくとも璃子は「ありがとう」という言葉が藤崎の口から出たのを聞いたことは、今の今まで一度もなかったのだ。

 だが、藤崎はさっさと出勤の支度を進めており、喜びに浸っているような時間は璃子にもない。

 ここに来て改めて「今日は初めて、車で職場まで送ってもらえるんだ」ということを意識し、璃子はまた少し緊張してくる。

 そして、二人の準備が整うや否や、「忘れ物がなければ出発するぞ」と言う藤崎の後に続いて、璃子も玄関へと向かった。

 普段の出勤時間より30分も早く、藤崎の車は職場の駐車場へと到着した。

 藤崎がかなり早い時間に出勤することがよくあることを、璃子も知っていたので、驚くようなことではなかったが。

 車に乗り込んで以降、璃子の話に対して相槌を打つことを除いてはほとんど一言も喋っていなかった藤崎が、駐車スペースに車を止めると同時に口を開いた。

「どうせいずれは他の社員に、俺たちが一緒にいるところを見られるだろう。以前にも言ったように、そのときは『恋人だ』ということで押し通せ。分かっているな?」

「はい、承知しています」

「なら、いい。降りるぞ」

 そう言ってシートベルトを外し、車を降りる藤崎。

 璃子も急いで後に続いた。

 誰もいない事務室に入った二人が、仕事の準備をしていると、続いて出勤してきたのは彩乃だった。

 さっき再確認があったとおり、「恋人ということで押し通す」という方針は決まっているものの、それでも心配になってくる璃子。

 彩乃に「部長と交際を開始した」と伝えてしまうと、質問攻めに遭うことはほぼ間違いないだろうからだ。

 挨拶を交わした後、彩乃が小声で言ってきた。

「ねぇ、部長と何かあったの?」

 彩乃の顔には、好奇心がありありと表れている。

 どうにかはぐらかそうと、璃子が同じく小さな声で答えた。

「え? 何かって?」

「昨日も二人でこの部屋に残ってたんでしょ。で、今朝はこうして、部長と同じくらい早い時間から出勤。そりゃ、怪しいじゃん」

「私だって、たまに早く来るし……」

 内心、「もうこれは『恋人関係になった』と告げた方が良いような気がしてくる璃子。

「そんなこと滅多にないじゃん! あ、そういえば、先週も早く来てた日あったよね! あのときも、この部屋で部長と二人っきり……。ますますアヤシイ……」

 彩乃は口元を緩めながら、目を細めて言う。

 観念した璃子はポツリと言った。

「絶対に誰にも言わないでね」

「うん、もちろん」

「部長と……お付き合いすることになって」

「おおお!」

 大声をあげる彩乃に対し、人差し指を唇に当てて「しーっ」とたしなめる璃子。

 彩乃は「いけない」と言わんばかりに、口に手を当てたが、悪びれた様子はまるでない。

 再び声を落とした彩乃が言葉を続けた。

「おめでとう。璃子はモテモテでいいなぁ~。羨ましい~」

「ありがとう。ねぇ、ホントに、誰にも言わないでね。約束して」

「任せといて。こう見えて、約束を破ることは絶対にしないから」

 頷く彩乃は、頬を緩ませたまま、さらに言った。

「ここで話してると、部長や他のみんなにバレるかもしれないから、続きはお昼にたーっぷり話そうよ! 聞きたいことが山ほどある!」

 気が進まない璃子だったが、いつも一緒に昼食をとる彩乃にこう言われては逃れる術はないので、「うん」と答える。

 その後は、たわいもないことを話しながら、二人は仕事の準備を進めた。