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天国の扉

ちょいS部長の羞恥レッスン15

 翌朝、通勤電車に揺られる璃子の脳裏には、嫌でも前日の出来事が浮かんできた。

 後始末を全て終えた後、璃子は自宅まで、藤崎の車で送ってもらうこととなったのだ。

 一度は辞退した璃子だったが、藤崎が「送っていく。俺が決めたことに口出しするな」と強硬に言ってきたので、それに折れる形で。

 つり革を右手で握り締めながら、心の中で「今日これから、どんな顔をして、部長と会えばいいんだろう」と呟き、悩む璃子。

 幸いにも、藤崎宅へ次回行く予定は、明後日ということに決まったのだが、会社では当然ながら平日は毎日顔を合わすことになるのだ。

 単なる恋人の関係ならば、璃子がここまで悩むことは一切なかっただろう。

 しかし実際は、「セフレ」という、微妙で「大きな声では言えない」関係なのだから、璃子の心は不安と悩みでいっぱいだ。

 さらに、羞恥プレイや性交の際に、思い出すだけでも恥ずかしくなるような痴態を、藤崎に見られてしまったことも、璃子の心に重くのしかかっていた。

 しかも、璃子自身の肉体が、羞恥プレイを毛嫌いするどころか、むしろ歓迎してしまっていたことも。

 それらのことを考えると、心が乱されるばかりなので、璃子は目を閉じて他のことを考えようとする。

 電車がひときわ強く揺れた瞬間、璃子の脳裏に浮かんできたのは、友則の姿だった。

 いつも優しかった友則は、藤崎のような命令口調の言葉も一切かけてこず、気遣いに溢れていたことを思い出す璃子。

 そして何より、あの当時、友則と璃子は深く愛し合っていたので、性交やその他諸々の行為においても、璃子はいつも「思いやり」や「愛」を感じていた。

 友則と過ごした、短いながらも幸せな日々を思い返すと、璃子は泣きそうになってくる。

 なので、さらに他のことを考えようと、璃子は目を開いた。

 視線の先にある大きな窓から見える景色は、璃子が目を閉じていた僅かな時間のうちに、ガラッと移り変わっている。

 先ほどまで目立っていた田畑はもうほとんど見当たらず、大小さまざまな建物が、窓の外を次々と流れていった。

 そうしたビルや家屋を目で追いながら、璃子は心の中で「彩乃の言うとおり、部長はSだった」と呟く。

 ただ、「どS」ではなかったことだけが、璃子にとっては僅かな救いだった。

 それでも、明後日のことを考えるたび、璃子の心は曇ってしまう。

 再び目を閉じながら、「初エッチの後、キスしてもらえたことは嬉しかったけど……結局あれもプレイの一環だったんだろう」と心の中でポツリと言う璃子。

 やはり璃子にとって、「愛」や「心」の伴わない性交には、寂しさや切なさしか感じられないのだ。

 璃子が再び友則の事を考え始めたとき、会社の最寄り駅へまもなく到着することを知らせる車内アナウンスが流れた。

 ドキドキしながら、璃子が見慣れた事務室へ入ると、そこには彩乃ら総務部所属の社員が3名いたが、藤崎の姿は見当たらなかった。

 少しホッとする璃子。

 もちろん、このままずっと顔を合わせないでいられるはずがないことは、璃子も分かっていたのだが。

 室内の全員と挨拶を交わしたあと、璃子はしばし、彩乃とたわいもないおしゃべりをしながら、仕事の準備を進めていく。

 すると、僅か数分後、藤崎が「おはよう」と言いながら入室してきた。

 彩乃らに混じり、璃子も「おはようございます」と挨拶を返す。

 恐らくただ一人、気詰まりな思いを抱えながら。

 藤崎の態度は、いつもと全く変わらない様子だ。

 こちらをじっと見てくることもなかったので、胸を撫で下ろす璃子。

 彩乃との雑談を続けながら、璃子は時折チラチラと藤崎の様子を確認していた。

 お昼過ぎまでは、いつもと特に変わらぬ一日だったといえる。

 しかし、お昼休み直後の会議室での準備作業を、璃子は藤崎と二人で行う事となってしまい、思わず固まる璃子。

 藤崎の方は、普段と変わらぬ様子と態度で、「では行くぞ」とだけ璃子に声をかけ、エレベーターへと向かった。

 緊張しつつ、璃子はその後をついていく。