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天国の扉

美術教師の羞恥デッサン20(未桜編1)

~ときは7月下旬、早耶香と藪下が面談をした日までさかのぼる~

 午前11時前、藪下はただひとり、3年H組の教室にいた。

 15分ほど前に、面談を終えた早耶香を見送った藪下は、そのまま教室に残ったわけだ。

 藪下は時折、時計を確認しながらドアのほうに視線を移す。

 すると、10時58分ごろになって、ドアが開き「おはようございます」と挨拶しながら一人の女子生徒が教室に入ってきた。

 すぐさま、彼女を待っていた藪下が、先ほどまで早耶香が座っていた席を指し示しながら言う。

「おはよう、館林(たてばやし)。そこの席に座ってくれ」

 その生徒の名前は館林未桜(みお)。

 早耶香や俊哉と同じく、3年H組の生徒だ。

 そして早耶香の時と同じく今回もまた藪下は、「ヌードモデル勧誘」の意図は隠しつつ、「面談」と称して未桜を呼び出したのだった。

 ドアをそっと閉めた後、藪下に言われたとおりに、窓際の席へと向かう未桜。

 未桜の身長は、早耶香と同じく平均的だったが、そのバストサイズは平均値を遥かに凌駕していてクラス最大であり、時々クラスメイトの男子たちの話題に上るほどだった。

 その豊かな胸は、歩いているだけでもかすかに揺れているのが、藪下の目にも見て取れるらしく、その視線は釘付けだ。

 未桜はその視線に気づいてはいたが、藪下に対して好感を抱いていたため、嫌な気はしない。

 そして、未桜は着席するや否や、ストレートに尋ねた。

「また面談って……もしかして、私の成績があまり良くないからですか?」

 未桜はクラス内では決して成績の良いほうではなかったのだ。

 ただし、「特別進学コース」であるH組に所属しているということで、クラスメイトの学力レベルが高いという事実は考慮しなければならない。

 つまり、未桜の成績が「クラス内では、中の下」だったとはいえ、全国的に見ると「少なくとも平均以上」のレベルにはあったのは間違いないだろう。

 H組の担任である藪下がこの事実を知らないはずはなかった。

 藪下は苦笑しながら言う。

「そういうわけではないんだ。心配をかけてすまない。単刀直入に言うと、ちょっと手伝ってほしいことがあってな。受験生の館林にこんなお願いをするのは、勉強の邪魔をしていることになり、担任としても教師としても失格だと思うんだが……」

 藪下の口から出た「手伝ってほしい」や「お願い」などの言葉を受け、未桜は双眼を輝かせた。

 前述のとおり、藪下に対して好感を抱いているからだ。

 この時点で早くも、「出来る限り、藪下先生のお役に立ちたい」という気持ちを未桜は抱いていた。

 黙って言葉の続きを待つ未桜に向かって、一呼吸置いてから藪下が言う。

「ヌードデッサンモデルを3回ほど、お願いしたいんだが」

 目を丸くする未桜。

 さすがにこの申し出は、未桜の予想の斜め上を行っていた。

 だが、驚いていたのはほんの一瞬のことで、すぐに落ち着きを取り戻して未桜は言う。

「私でよろしければご協力したいんですが、残念ながら私にはモデルの経験は一度もありません。デッサンモデルともなれば、長時間静止し続けなければならないという大変さがあると思いますが、正直に言いますと、ちょっと自信がなくて」

 今度は藪下が驚かされる番だったらしく、目を大きく見開いた。

 早耶香と同じく「裸を見せるのが恥ずかしい」という点で未桜が悩むだろうと、藪下は勝手に予想していたからだろう。

 そして、未桜が指摘した点は、同じく未経験者の早耶香を強く勧誘していたことからも分かるとおり、藪下にとっては「取るに足らない事」だったといえる。

 藪下は表情を和らげて言った。

「もちろん、モデル初心者の館林が引き受けてくれるのであれば、ポーズの時間を短縮したり、休憩時間を長めにとったり、出来うる限りの配慮はさせてもらうつもりだ。もし途中で気分が悪くなった場合は、その場で中止とするつもりだし、何か気がかりなことや心配事があれば、いつでも言ってくれればいい。だから、初心者であっても、何ら問題はないからな」

「では、お言葉に甘えて……お引き受けします」

 報酬面のことを全く聞かないままに、即決した未桜を見て、藪下は再度意外そうな表情を見せる。

 恐らく、藪下は未桜から好かれていることを知らないと思われるので、これほどまですんなり快諾してくれる未桜の気持ちが分からないのだろう。

 しかし、藪下はすぐまたリラックスした表情に戻って言った。

「快諾してくれてありがとう。モデル代は3回分合計10万円でどうだろうか?」

 早耶香の時より低い金額を提示する藪下。

 恐らく、未桜が早耶香同様に悩んだり迷ったりする様子を見せていれば、もっと金額を吊り上げたと思われるが、金額提示以前にこれほどまでやる気を見せているので「この金額でも納得するだろう」と考えたようだ。

 未桜は再び目を丸くして答える。

「そんなにいただいて、大丈夫なのでしょうか?」

「ああ、もちろん。館林は初心者なのに頑張ってくれると言うし、何より受験生の貴重な時間を奪うことになるのだから、このくらいの金額は当然だ。じゃあ、オッケーしてくれるか?」

「はい、もちろんです!」

 笑顔で元気に答える未桜を見て、怪訝そうに藪下が言う。

「やってもらうのはヌードデッサンモデルで……美術部員たちの前に出て、裸でポーズをとってもらうんだが……大丈夫か?」

「お気遣いありがとうございます。私もそこまで馬鹿ではありませんので、大体の概要は理解しているつもりですし、今さらお断りしません。ですが、未経験者ということで、細部については全くといっていいほど知りません。事前に教えてもらえるでしょうか?」

「それはもちろんだ。早速、詳細について説明しよう」

 そうして始まった話し合いにより、初デッサンの日時は、早耶香のデッサン日の翌日午前10時に決定した。

 つまり、美術部員たちにとっては、連日のヌードデッサンとなるわけだ。

 さらに、早耶香に対してしたのとほぼ同じ説明を、今度は未桜に向かって繰り返す藪下。

 未桜は真剣な表情で、その説明に耳を傾けていた。