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天国の扉

美術教師の羞恥デッサン2(早耶香編2)

「だから、1回だけではなく、数回やってもらおうと思って、『数日間』と言ったんだ。正確には、ほんの3回だけでいいんだが」

「それでも、すごい金額のような気が……」

「いや、それは違う」

 急に自信満々な様子で言い切る藪下は、咳払いを一つ挟んでから言葉を続ける。

「あくまでも私の場合ということを念頭に置いてほしいんだが……。私の場合は、モデル代をはっきりと固定していないんだ。モデルにより、慣れ不慣れがあるのは当然だし、ポーズをとってもらう時間もまちまちだからな。それに、『モデル向きの身体をしているモデルさん』と『そうでないモデルさん』とが同額なのは、私はおかしいと思う。失礼を承知で言うんだが、魚谷はスタイルも抜群だし、若くて生命力溢れる美しい身体をしているように、私からは見えるからな。この金額でも安いかもしれないと思うほどに」

 喜んでいいことなのかどうか、早耶香自身には分からなかったが、少なくとも褒められたことは確かだったので、小さく「ありがとうございます」と礼を言う。

 この返事を「了解。モデルをやる」という答えと勘違いしたらしく、藪下が勢い込んで言った。

「じゃあ、お願いできるか?」

「え、えーと……」

 決心がついていない早耶香は頭を悩ませる。

 確かに条件は素晴らしいのだが、やはり何といっても、「ヌードモデル」という仕事そのものに大きな抵抗があった。

 本来であれば、とっくに断っているところだったが、今回は破格の報酬が早耶香に迷いを呼んでいた。

 手術費用が莫大なため、家族中が資金繰りに必死な状況なので、今ここで早耶香が20万円もの大金を手にすれば、大きな助けとなるのは間違いないのだ。

 早耶香が悩んでいるのを見て、藪下はさらに言った。

「手術は8月中旬と言っていただろ。だからなるべく早く、支払うように努力するからな。で、もし『こうは言っているけど、結局モデル代金を全額は払ってもらえない詐欺かもしれないな』と疑っているのなら、その心配は一切ないと言い切れる。もし引き受けてくれるのなら、手始めにこれを受け取ってくれ」

 藪下はバッグから封筒を取り出すと、中に入っている2枚の1万円札を見せつけながら言葉を継いだ。

「頭金のように受け取ってもらっても構わない。この2万円は今すぐ渡すことができる。また、私のほうは魚谷のことを信用しているから、モデル3回が終わる前に、20万円全額を渡すことも十分可能だ。どうだろう」

 この申し出は早耶香にとって大きな誘惑だった。

 しかも、藪下の口から出た「信用している」という言葉や、早耶香に対する誠意が感じられる態度もまた、早耶香に好感を抱かせている。

 ただ、それでもなお、「恋人でもない男性の前で、裸を見せる」ということだけが、早耶香の心に重くのしかかり、首を縦に振れない。

 しかし、藪下はそんな早耶香の迷ってる様子を見ても、一向に失望した様子などは見せず、さらに言った。

「3日間と言うと、まるで『モデルを長時間して、3日間をまるまるつぶす』といった感じだと勘違いされるかもしれないので、ここでもっとはっきりさせておこう。魚谷はモデル経験はないんだろ?」

「ええ、ないです」

「だったら、最初の日は1時間程度でいい。それも、ずっとポーズをとらなくてはいけないというわけではない。10分から15分間ほどポーズをとってもらって、その後15分間の休憩を挟み、再度同じくらいの時間ポーズをとってもらう、という感じだな。つまり、ポーズをとってもらうのは実質30分間程度のことで、あとは休憩や準備などというわけだ。2度目も同じ感じでお願いして、3度目はもし慣れてきたなら、ポーズを3回に増やしてもらおうかと思う。もし慣れてなければ、2ポーズだけでも構わないし、そのときに決めよう」

 これを聞き、早耶香の心が「受諾」のほうへと傾いてきた。

 この説明を聞く限り、裸になるのは短時間だけで済みそうだからだ。

 ただ、説明の最中ずっと早耶香の脳裏にこびりついて離れなかった別の懸念があった。

 むしろ、「最大の懸念」と言っても過言ではないほどのものが。