スポンサーリンク
天国の扉

怪しい媚薬の研究所53(大爆発編1)

 桜子たちの実験から約1週間後、研究所内では通常どおりに実験や研究が行われていた。

 宮元と運転手の二人のみ、次の実験の被験者探しのため、いつものワゴンに乗って出かけていたが。

 梅雨に入ったため、ここ数日は大雨に見舞われており、この日も同じく激しい雨が降っていた。

 そんな雨が窓を打ちつける中、自身の研究室にて、一人っきりで黙々と続ける莉央菜。

 いつもの白衣を着て、いつもの実験器具を手にしながら。

 ノートに実験に関するメモを取りながら、莉央菜がふと呟いた。

「こんな大雨の日に、友矢君も大変ねぇ。私は『梅雨が明けてからでいいんじゃないかな』って止めたのに。まぁ、友矢君は活動家だから、研究所にこもって実験に明け暮れるよりは、外回りのお仕事の方が向いているのかなぁ」

 宮元との「一週間だけ恋人」という約束の期間はとっくに過ぎ去っていたが、莉央菜の方から「延長したい」と申し出て、結局なし崩し的にその関係は続いていた。

 宮元は既に生活必需品などを莉央菜の部屋へと運んでおり、ほとんど同棲状態といえる。

 美貌のおかげで恋人に不自由したことのない莉央菜だったが、宮元に対してだけは、これまでの数多の恋人とは違い、ある種の「特別さ」を感じていた。

 最初は単純に「身体の相性がいい」だけだと思っていたのだが、たまにデートをしたり、一緒に過ごしたりしていくうちに、「そばにいて、楽しいし、安らげる」と思い始めていたのだった。

「友矢君、早く帰ってこないかな~。外回りなんか、佐藤たちにでも任せておいて、ここで一緒に研究を続けていればいいのに」

 そう言うと、莉央菜は大きな溜め息をついた。

 そんなときだ―――。

 ボカーンという爆発音が、建物内のどこかで聞こえたかと思うと、直後にガラスの割れる音が莉央菜の耳に入ってきた。

「え?! 何?!」

 莉央菜は慌てて研究室を出ると、音がした方角へと走り出した。

 莉央菜が2階廊下へ出た瞬間、一目でその先が現場だと分かった。

 莉央菜より先に、佐藤とおぼしき人物が、爆発現場とおぼしき「倉庫」へと入っていく。

 倉庫とはいえ、莉央菜が名づけた仮称に過ぎず、本来は物置部屋とでもいうべき部屋なのだが。

 ともかく、莉央菜も倉庫前まで全力で走った。

 莉央菜がそばまで行くと、扉の上半分が破れ、室内が見えていた。

 しかし、扉が半壊し、床に色んな物が散乱するほどの衝撃だったにも関わらず、火の手は上がっていないようだ。

 やや広めの室内には、既に7人の職員と1人の警備員の姿があった。

「何が起きたの?」

 莉央菜がそう言って、足を踏み入れようとした瞬間―――。

 突然、鈴木が莉央菜の前に躍り出ると、飛びついてきた。

 驚きつつも、咄嗟にひらりと身をかわす莉央菜。

 莉央菜は何とか鈴木をよけることに成功はしたが、もんどりうって廊下に倒れこんだ。

 鈴木は派手に廊下へ転がり出ながらも、なおも莉央菜をギラつく目で睨むと、低くうなるような声で言った。

「莉央菜所長ぉぉぉ!」

 莉央菜はパニックになりかけながらも、どうにか後ずさりしながら問いかける。

「ちょっと、鈴木! どうしちゃったのよ?!」

 すると、今度は倉庫から田中と佐藤と盛岡という、3人の職員が、鈴木と莉央菜の間に飛び出してきた。

 そして、3人は鈴木と一緒になって、じりじりと莉央菜に迫っていく。

 全員、目が血走っており、無表情だった。

 思わず腰を抜かしかけた莉央菜が尋ねる。

「み、みんな……どうしちゃったのよ?!」

 3人が姿勢を低くし、今にも莉央菜に飛びかかりそうな気配を見せる。

 恐怖に青ざめる莉央菜は、必死になってどうにか立ち上がると、振り返りもせず一目散に逃げ出した。

 階段目指して走る莉央菜の背後には、バタバタと4人が追ってくる音が聞こえている。

 莉央菜は思い出していた。

 佐藤が面接時に「学生時代は陸上部だった」と言っていたことを。

 そして、莉央菜は走りが苦手だった。

 これらの事実から予想されるとおり、莉央菜と佐藤との距離は、あっという間にグングン詰まっていく。

 莉央菜が階段の踊り場まで差し掛かったときには、僅か5メートルほどの差になってしまっていた。