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天国の扉

怪しい媚薬の研究所18(朋香編6)

 それ以降、朋香と田中は口をきかないままだったが、そんな沈黙の静けさは長くは続かなかった。

 戸が再び、ガラガラと開けられたからだ。

 入ってきた人物が誰なのか、朋香からは見えなかったが、田中からは見えていた。

 それは、朋香と一緒に撮影に臨む男性モデルの三浦で、田中に向かって小さく目で会釈をする。

 朋香は緊張の面持ちで、振り返ることもしなかった。

 同じく目で会釈をした田中を見てから、男性モデルは淡々とした様子で服を脱ぎ始める。

 特に恥ずかしさも感じていない様子だった。

 一方、さっきまで朋香がいた和室では、莉央菜ら研究所スタッフが全員集結していた。

 露天風呂へ先に向かった田中を除いて。

 全員、腰を落ち着けて、机の上に置かれた小型のモニター6台を見ている。

 モニターには、露天風呂の様子がはっきりと映っていた。

 そのうちの一つには、朋香の上半身を正面から映しているものすらある。

 岩の隙間に挟んであるカメラの映像らしい。

 全てのカメラが超小型のため、レンズも小さく、気づかれにくいようだ。

 そして、全てのモニターの上部には、録画中を示す赤いランプが点灯している。

 画面上部にも、「●REC」という文字が出ており、現在も全ての映像が録画され続けているのは間違いないようだ。

 莉央菜がハンカチで汗を拭きながら、宮元に向かって言った。

「予想外に道が混んでて困ったけど、どうにか大きな遅れにはならずに済んだようね」

 宮元が安心したような表情で答える。

「よかったですよ。さーて、いよいよですね!」

「そうね。確認の意味も含めて、これからの段取りをもう一度言うわよ」

「ありがとうございます」

 宮元や鈴木ら、部屋にいる6名のスタッフ全員が、視線をモニターから莉央菜へ移した。

 莉央菜が説明を始める。

「現場に仕掛けてある隠しカメラの映像は、全てこのモニターで確認できるわ。なので、こちらの判断で頃合を見計らって、鈴木と佐藤が現場へ向かうことになる予定よ。鈴木、佐藤、準備はいいわよね?」

 鈴木と佐藤は「準備万端です」「問題ございません」と口々に答えた。

 満足そうな笑みを浮かべ、説明を続ける莉央菜。

「で、『撮影開始』となるところを、機材の故障というハプニングが起こっちゃうわけ。実際には機材は全く故障しておらず、こちらの予定通りで、ハプニングではないんだけどね。その頃になると、男性モデルの三浦君も、女性モデルの沢下さんも、どちらも薬の効果でもじもじし始めているはずよ。三浦君には、ここに到着する前、車の中で既にペットボトルを手渡していて、ごくごく飲んでいたから、多分三浦君の方に先に効果が現れると思うわ。まぁ、遅かれ早かれ、二人とも大興奮になる予定だから、『どちらが先か』とかはあまり気にしないでもいいわね。そして、そんなときに、嘘の機材トラブルによって、田中と鈴木と佐藤が全員いったん撤収して、三浦君と沢下さんを二人っきりにするわけね。『申し訳ございません。新たな機材を取ってまいりますので、10分間だけ待っていてくださいますか? お二人がのぼせないように、なるべく早く戻ってまいりますので』とか何とか言って、無理やりにでもモデルの二人を納得させてから、ね」

 鈴木と佐藤は、時折頷きつつ、特に真剣に聞いているようだ。

 莉央菜はさらに続ける。

「そこからは、田中と鈴木と佐藤も含めて、スタッフみんなでライブ映像を鑑賞するお楽しみの時間よ。あの二人は友人同士ですらなく、全くの初対面なんだけど、私の予想ではきっと上手くいくと思うわ。薬の効果に抗えるはずがないもの」

「しかし……」

 ここで宮元が口を挟んだ。

 普段から、莉央菜の話に口を挟めるのは、主任を任されている宮元のみだった。

「沢下さんは、ものすごく清楚な方なので、一筋縄ではいかない気がしますよ……。あくまでも、最後まで拒まれては、せっかくここまでお膳立てしたことが、全て台無しになってしまいますし……そこが怖いところですね」

 莉央菜は笑顔で反論する。

「うふふ、宮元君は忘れたのかなぁ。宮元君、こないだだって、『緑川さんと赤村さんは、そんな行為に及びそうにない』って言ってたでしょ。で、結果はどうだった?」

 太一と凜のことを思い出し、宮元はうなった。

「確かに……。あのときは所長のおっしゃるとおり、二人は行為に及びましたね。ですが、あれは気心知れた友人同士だったからでは? 幾らなんでも、初対面では、厳しいのではないかと私は思いますよ。それで、心配しているわけです」

 こう指摘されると、あからさまに莉央菜は渋い顔をして言った。

「もう~、宮元君は景気の悪いことばかり言うわね。冷静な分析は、時に私たちを大きく助けてくれるのは間違いないんだけど、これから意気揚々と実験に臨むときに、そんなことを言われると、雰囲気が悪くなるじゃない。じゃあ、宮元君は、『あの二人が行為に及ばない』と、そう主張するわけね。自信はあるの?」

「え、いや……自信があるというわけではなく、その……。心配しているだけでして……。そりゃ、私だって、成功した場面を見たいですよ! 成功を祈っているに決まってるじゃないですか」

「ホントかなぁ。じゃあ、宮元君に質問! 『あの二人は行為に及びますか?』……イエスかノーで答えてね」

「え? う……」

 口ごもる宮元に、莉央菜がさらに付け加える。

「もし正解なら、明日の夜、私を抱いて寝てもいいわ」

「ええっ?!」

 宮元や他のスタッフらの口から驚きの声が漏れた。