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天国の扉

怪しい媚薬の研究所16(朋香編4)

 宮元が続ける。

「いえいえ、当然のことです。そして、お渡しする手ぬぐいを持って、お湯に入っていただき、男性モデルさんやスタッフを待っていただくことになります。多分、準備は数分で済みますので、そんなに長時間待っていただく必要はございませんので、ご心配なく。そして、沢下さんと男性モデルさんの準備が出来次第、その旨をカメラマンに伝えていただき、撮影開始といった具合です。撮影終了後は、沢下さんから先に上がっていただき、こちらのお部屋へと戻っていただくという、そんな感じです。多分、今から1時間も経たないうちに、全ての工程が終了していると思います。何かご質問等、ございましたら、お気軽にどうぞ」

「ご説明ありがとうございます。概ね了解いたしました」

「何かご不明な点がございましたら、いつでもお尋ねくださいね。ああ、そうそう。こちらをお渡ししておかないと。こちらが手ぬぐいです。あと、飲み物はご持参なさっていると思いますが、こちらに冷えたものがございますので、どうぞ」

 宮元はそう言うと、手ぬぐいとお茶のペットボトルを渡した。

 朋香は「ありがとうございます」と言って受け取る。

 手ぬぐいは何の変哲もない白い色をしたものだった。

 やや生地が薄く感じられたので、心ひそかに朋香は不安になる。

 お湯に濡れて透けてしまうのではないか、と。

 しかし、朋香はそんなことを言い出せる性格ではなかったし、そもそもそういう空気でもなかった。

 周りのスタッフはせっせと準備を進めていて、他に手ぬぐいやタオルなどもなさそうだったので。

 そして、冷たいペットボトルに視線を移す朋香。

 朋香がバッグに入れてきたペットボトルの水は、すでに生ぬるくなってしまっていたので、朋香にとってはありがたかった。

 ペットボトルを眺める朋香を、注意深く観察しながら宮元が言う。

「では、説明はこのあたりで終わりにしておきますね。まだ少しお時間がございますので、ごゆっくり。指示の方は、全て私からさせていただきますので、それまでご待機ください」

「はい、了解しました」

 朋香の言葉を聞き、会釈をして立ち上がる宮元。

 それからドアへと向かったのだが、出て行く直前に、スタッフに扮している鈴木に目配せをした。

 頷いて目配せを返す鈴木。

 鈴木は「朋香がペットボトルのお茶に口をつけたかどうか、しっかり見張っておけ」という意図を、ばっちりと把握していたようだ。

 これらのやり取りは、ごく自然に行われており、しかも宮元も鈴木も朋香に背を向けていたため、朋香は何一つ察知できずにしまった。

 安心した宮元は、莉央菜に連絡を取るため、素早く廊下に出るとスマホを取り出す。

 そして、電話をかけ、状況を確認した。

 慌しく準備を進めるスタッフのそばで、所在無げにポツンと座っている朋香。

 喉が渇いたので、一口二口、渡されたペットボトルの冷たいお茶を飲んだ。

 その場面をすぐそばで、さりげなく、しかしはっきりと確認する鈴木。

 鈴木は黙ったまま、何か用事をこなす風を装って、部屋を出て行った。

 宮元に知らせるために。

 廊下での通話により、莉央菜から「あと5分以内には到着の見込み」と知らされた宮元は、電話を切ったところで、部屋から出てくる鈴木に気づき、顔をそちらへ向けた。

 鈴木が小声で報告する。

「飲みましたよ」

「おぉ、よかった! それじゃ、そろそろ準備に移ろう。まもなく、所長たちも到着する見込みだから」

 そして、宮元は再び部屋へと入っていった。

 鈴木を後ろに従えて。

 入室した宮元は、すぐに朋香に言った。

「あちらの車もまもなく到着する見込みだそうです。そろそろ、準備していただけるでしょうか? 温泉は1階に降りていただき、右手に進んでいただくと、すぐに分かると思います。もし、ご不明な点がございましたら、従業員さんや我々スタッフを捕まえて尋ねてみてくださいね」

 それを聞いた朋香は、ペットボトルを机の上に置くと、立ち上がって言った。

「了解いたしました。色々とありがとうございます。荷物はどうしましょう?」

 荷物といっても、朋香は小さなトートバッグしか持ってきていないのだったが。

「こちらの部屋には、必ず一人以上のスタッフを待機させておきますので、置いていっていただいてもかまいません。ただ、貴重品がございましたら、フロントに預けていただきますね。私もご同行いたしますよ」

「すみません、お願いします」

「では、まいりましょうか」

 こうして、朋香と宮元はいったんフロントへと向かった。