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天国の扉

怪しい媚薬の研究所13(朋香編1)

 それから1週間後の晴れた午後、宮元はとある女子高の前にいた。

 今回もまた、例の媚薬の効果を試す実験のために、被験者を探していたのだ。

 大学生ばかりを集めた前回とは違い、今回は女子高生をターゲットに組み込もうという考えだった。

 発案者はもちろん莉央菜だ。

 太一や凜を含む、複数の大学生を被験者にした先日の実験は、新開発の媚薬の驚くべき効能を実証する結果となった。

 あんな詐欺まがいの手口を用いて強制参加させたため、研究所の一部の職員は「被験者に訴えられないかな」と怯えていたが、「大丈夫」の一点張りだった莉央菜。

 莉央菜の言葉通り、あれから1週間経った現在に至るまで、訴えられたり、警官が訊ねてきたりなどといったことも起こらず、研究所は普段通りの活動を続けていた。

 被験者を麻酔薬で眠らせて、部下の職員に運ばせた際、その足で銀行に出向き、指定の口座に振込みを済ませていたことも影響したのかもしれない。

 それも、指定の金額の倍額を。

 また、被験者たちに、何ら証拠になるものを与えなかったのも、大きかったのだろう。

 さらに言うならば、ここで起きたことは、被験者たちにとって、あまり堂々と口外したくない内容であるということもまた、被験者たちが訴え出るような行動を起こさない理由の一つかもしれなかった。

 そしてこれらのことは全て、莉央菜の計算どおりだったのだ。

 なので、莉央菜は全く心配することもなく、普段通りに日夜研究に没頭していた。

 前回の実験のテーマは、「大学の友人同士で、その間に何ら恋愛感情がない場合でも、薬の力によって性行為に及ぶのか」ということだった。

 それを3組の男女で試したが、太一と凜の場合を含む、全ての組において大成功という結果に終わったのだ。

 薬が絶大な効果を示したことで、すっかり気を良くした莉央菜は、「じゃあ、赤の他人でも同じなのか? 初対面でも?」と、新たな実験を思いついたらしい。

 そして、再び実験を行うべく、宮元ら三人の職員を被験者探しの任務につかせたのだった。

 宮元は、校門から出てくる女子高生たちに何度か声をかけるものの、ぴったりの人材がなかなか見つからなかった。

 それもそのはず、莉央菜から強く「18歳以上限定で」と言いつけられていたからだ。

 つまり、まだ6月になったばかりの現在、高校生でなおかつ18歳となると、高3でしかも誕生日が4月から6月初旬にある人となってくるのだった。

 交渉に入る段階にすら、なかなか到達できずに焦る宮元。

 そんなとき、目の覚めるような美少女が目の前を歩いてきたので、宮元はすかさず声をかけた。

「あの、すみません。私、出版社の者なのですが、少々お時間よろしいでしょうか?」

 言うまでもなく、出版社というのは大嘘だ。

 その女子高生は、きょとんとした顔をして「はい」と言うと、足を止めてくれた。

 すぐさま本題に入る宮元。

「現在、『恋人とラブラブデートの貸切温泉宿』という本に掲載する写真にて、被写体となっていただく18歳以上のモデルさんを募集しているのですが……」

 ここまで聞いただけで、意図を理解した女子高生が苦笑しながら答える。

「お声かけありがとうございます。ただ……私は18歳以上ではございますが、私のような人がモデルだなんて、無理があると思います」

 18歳だと聞いてしまった以上、宮元がすんなり引き下がるはずはなかった。

「そんな、とんでもない。あなたのような方を我々は探しているのです。申し遅れましたが、私、こういう者です。よろしければ、お話だけでもあちらで聞いていただけませんか? 全て聞いていただいた上でお断りいただいてもかまいませんので」

 言いつつ、「豆川出版 宮元友矢」と書かれた名刺を手渡す宮元。

 両手で丁寧に受け取り、財布にしまいながら女子高生が答える。

「ご丁寧にありがとうございます。私は名刺を持っていなくて、申し訳ございません。沢下朋香(さわした・ともか)と申します。せっかくお声かけいただき、名刺までいただいたところ、誠に恐縮で申し訳ございませんが……温泉宿紹介のご本に載るモデルとなりますと、きっと裸に近い格好になりますので、私にはちょっと無理かと思われます」

 きっぱり断ろうとする朋香だが、宮元はやはり食い下がる。

「その温泉宿様は、普段ならバスタオルやタオルの持ち込みが禁止されているのですが、このたびの撮影に関しましては、バスタオルを巻いて湯につかることも許可してくださっています。それに、モデルさんからOKサインをいただかない限り、カメラマンはカメラを向けないようにしますので、ご安心ください。また、撮影は、こちらの最寄り駅集合と仮定しますと、温泉宿までの往復を含めまして大体5時間以内には全て終了すると思われますが、日当を10万円お支払いいたします」

 小声で言われた最後の金額部分を聞いた途端、朋香の目が驚きで見開かれた。

 すかさず畳み掛ける宮元。

「今回は若いモデルさんを募集しておりまして、なおかつ、『髪は黒髪で』『ピアスなし』『色白』などの色んな条件を設けておりますゆえ、どうしても厚く報いさせていただくことになるのですよ。幸い、沢下さんは全ての条件を満たしてらっしゃいますので、お声かけさせていただいたわけです」

「ありがとうございます……。それでは、お言葉に甘えまして、お話を」

「こちらこそ、ありがとうございます。お時間を取らせてすみません。では、あちらへどうぞ」

 宮元はいつものワゴンを手で指し示してから、朋香をそちらへ案内していった。

 車体のドア部分に書かれてあるロゴが、「豆川TV」から「豆川出版」へと書き換えられたそのワゴンに。