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天国の扉

怪しい媚薬の研究所12(太一&凜編12)

「んん……」

 目を覚ました太一が声を漏らした。

 ほぼ同時に、凜も目覚めたようで、うめくような声を立て続けにあげている。

 凜はすさまじい倦怠感を感じていたが、どうにか目を開けて辺りを見回してみた。

 どうやら、二人は見知らぬバス停に設置されたベンチに、寝かされていたようだ。

 辺りの景色には、凜は全く見覚えがなかった。

 二人の目の前には細いものの、舗装はされている道路が通っている。

 ただ、周囲には木々が生い茂っており、山奥か田舎なのではないかと思わせた。

 空は雲ひとつない快晴で、太陽は眩しく照り付けている。

 太一が、凜の様子を心配そうに見ながら言った。

「凜、無事か?」

「うん、ありがとう。太一は?」

「僕も大丈夫だ。しかし、くそっ! 何なんだ、あいつら、いきなりあんなことして……!」

 憤懣やるかたない様子の太一は、その場で立ち上がると地団太を踏んだ。

 凜がなだめるように言う。

「ねぇねぇ、ここ、どこなのかな? 私にはさっぱり分からなくて……。私もあの人たちには憤りを覚えているけど、まずここから脱出するのが先決だと思うから……」

「そうだよな、ごめん。うーん、どっかのバス停みたいだけど、まるで知らないところだぞ。スマホで調べるか」

 やや冷静さを取り戻した様子で、ポケットを探る太一。

 幸いなことに、二人の持ち物は、バッグやポシェット、着ている服に至るまで、全て無事だった。

 そして、スマホを確認しながら、太一が言う。

「かなり歩かないといけないけど、電車の駅までは徒歩でも行ける距離みたいだ。ここ、バス停みたいだけど、バスは……」

 腕時計を見ながら立ち上がる太一。

 いつしか時刻は午後1時を回っていたようだ。

 つまり、数時間もの間、二人は気を失っていたらしい。

 そして、バスの時刻表を確認した太一は、舌打ちした。

 バスは1日にたったの2本しかなく、次にバスがこの停留所に来るのは3時間以上先のことだったからだ。

 諦めたかのような様子で太一が言う。

「やっぱ歩くしかないな……。凜、歩けるか?」

「うん、ちょっと身体がだるいだけで、別に怪我もしてないし大丈夫。持ち物も全て無事みたいだね」

 ここで再び持ち物や身体を調べる二人。

 やがて太一が言った。

「そうだな。身体と持ち物が無事だったのが、不幸中の幸いか。とんでもない目に遭ったけど。あんな……」

 ここで太一が口をつぐんだ。

 薬の力によるとはいえ、凜と性交してしまったことを思い出したらしい。

 それは凜も同じで、頬が急に赤く染まってきた。

 漂い始める気詰まりな沈黙を恐れ、凜が口を開く。

「ご、ごめんね、ホントに……」

「いや、凜は悪くないだろ。謝る必要なんかないって。むしろ、僕の方が……」

「私が悪くないって言ってくれるのなら、太一だって悪くないでしょ」

「確かに、最も悪いのは、宮元を始めとする、あの建物にいたヤツらだけど……。でも、怪しい薬を飲まされていたのはいえ、僕が凜に大変なことをしてしまったのは事実だ。本当にすまない。ごめんで済むようなこととも思えないけど……」

 伏し目がちに話し続ける太一は、心底申し訳なさそうに、深く頭を下げた。

 両手を振って、慌てた様子で凜が言う。

「謝らないでって。私なら、全然平気だから。むしろ、あのとき……私からお誘いしちゃったみたいな感じだったでしょ。太一は、嫌じゃなかった?」

「あのときも言ったと思うけど、嫌なはずないだろ! 僕はただただ、凜のことが心配で……。こんなことを言うと軽蔑されるかもしれないけど、僕はあのとき、けっこう楽しんでしまってた。薬のせいとはいえ、申し訳ないな……」

「軽蔑なんてしないよ! 私だって……その……気持ちよくて……。太一が嫌な気持ちになってなくて、よかった……。そして……初めての相手が、太一でよかった……。もし……宮元さんや、その他の会ったばかりの人に、同じことされてたら……そんなことを想像するだけで、ゾッとしちゃう……」

「そう言ってくれれば、少し心が軽くなるよ。やっぱ、どうせあんなことをされてしまうのなら……顔見知りの僕の方が、ずっとマシってことだよな?」

 やや安堵した様子の太一。

 嬉しさを隠せない様子なのはきっと、凜から「初めての相手が太一でよかった」と言ってもらえたからだろう。

 ところが、凜は寂しそうな、それでいて恥ずかしそうな、複雑な表情になって答えた。

「マシとかじゃなくて……。本当に、太一でよかった……」

 太一は何か言おうとしたが、唇をもごもご動かすだけで、言葉にはならなかった。

 凜もまた、言おうとした言葉を飲み込む。

 凜は「太一が好きになった。お付き合いしてほしい」と言いたかったのだった。

 だが、どうしても言えないまま、沈黙が二人を包み込む。

 それを破ったのは太一だった。

「凜が傷ついていないみたいで……僕もよかったよ。じゃあ、話は歩きながらするとして、そろそろ出発しよう。スマホの地図を頼りに行けば、多分大丈夫だと思う」

「う、うん……」

 告白できる空気ではなくなったので、凜は諦め、頷きながら立ち上がる。

 そして、二人はスマホを頼りに、電車の駅を目指して歩き出した。

■ 太一&凜編 終わり ■

コメント

  1. たなかせいぎ より:

    怪しい媚薬の研究所(太一&凜編1
    読ませていただきました。着眼点がよくいい作品だと思いました。
    1点申し上げたいことがございます。
    太一も凛も初めてという設定なのに、うますぎます。
    媚薬の効果についてはフィクションだからいいですが、実際の行為は性欲が高まったからといって上手にできるわけではないと思います。
    まず、場所がわからなかったり、大抵そんなにうまくいかないものです
    すぐに出てしまったり。話としてはそんなところで躓いていてはつまらないものになるということだと思いますが(一応痛いかどうかのフォローはありますが)、行為による快感ではなく、媚薬による快感のみと考えれば強く感じることも考えられますが、そんなにうまくはいかないように感じます
    全てファンタジーだと思えばいいのかもしれませんが。