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天国の扉

セフレの彼は幼なじみ58

 それからどのくらい歩いただろうか。

 辺りが薄暗くなり始める頃、四人は急な上り坂の手前まで歩いてきていた。

 前方には、左右に伸びる分かれ道が見えている。

 どちらを行くにしても、なかなかの勾配の坂を上る必要がありそうだ。

 慣れない草履で長距離を歩いたために、菜那美は足に少し痛みを感じていた。

 もちろん、誰にも言わなかったが。

 智孝によると、この先に絶好の花火観覧スポットがあるらしい。

 ところが、そこで陸翔が口を開いた。

「そこ、俺も知ってるぞ。えっと、3年ほど前、菜那美も一緒に行ったよな」

 話を振られて、必死で記憶を探る菜那美。

 はっきりとどういう場所だったかは思い出せなかったものの、「あまり人がいないところで、陸翔と二人っきりで花火を見られた」ということだけは思い出せた。

 なので、「少しだけ」と菜那美は答える。

 陸翔は言葉を続けた。

「だけど、そこって多分もう人混みですごいことになってるぞ。誰かがネットの掲示板でバラしたんだろうな。口コミの威力はスゴイものだよな」

 智孝は「そうなのか」と残念そうだ。

 陸翔がさらに続ける。

「そこでだ。また新たな穴場を探そうぜ。で、菜那美の足が限界に近いみたいだから、菜那美と俺がペアで行くことにする。智孝、絵莉花のことを任せてもいいか?」

 菜那美は意図が分からず、ポカンとした。

 しかし思い直して、尋ねる。

「ど、どうして、足のこと分かったの?」

「そのぐらい分かるって。だから、近場を探そうぜ」

 そこで今度は智孝が言う。

「菜那美ちゃん、足が辛かったんだね。気づいてあげられずごめんね。……でも、なぜ、菜那美ちゃんと陸翔がペアに?」

 すると絵莉花が寂しげな表情で口を挟む。

「私と一緒じゃ嫌?」

「そ、そんなこと言ってないって!」

 珍しくいつもの冷静さを失い、慌てた様子で否定する智孝。

 彼の絵莉花への想いを知っている菜那美は、深く共感した。

 陸翔が再び口を開く。

「菜那美は嫌じゃないよな? 俺と一緒で」

「全然嫌じゃないよ!」

 今度は菜那美が少し慌てた。

 続けて、「むしろ嬉しい」と言いかけた言葉を、すんでのところで飲み込んだ菜那美。

 その返答を聞き、少し頬をほころばせて陸翔が言う。

「じゃあ、決まりってことで。俺たちはあっちの辺りを探すから、智孝と絵里花は逆方面を頼むぞ。智孝、くれぐれも絵莉花をよろしくな」

 既に冷静さを取り戻した智孝が、いつもの微笑みを取り戻して答える。

「了解! それじゃ、絵莉花、行こっか」

 絵莉花も笑顔で「うん」と返す。

 そして、智孝と絵莉花は、向かって右側の道へと向かって歩み始めた。

 二人を横目で見つつ、陸翔が言う。

「じゃ、俺たちは左の道を行くぞ。足が痛かったら、休んでからでもいいが……どんな具合だ?」

「あ、大丈夫だから。心配かけてごめんね。それじゃ、行こっか」

「おう。きつくなったら、我慢せずにすぐ言えよ」

「うん、ありがとう」

 そして二人も歩き始めた。

 ものの数分歩いただけで、辺りはかなり山深くなってきていた。

 幸い、車道も歩道も舗装されており、不都合はなかったが。

 それでも、「この先、山なのかなぁ」と菜那美に思わせるほど、周囲には人気(ひとけ)もなかった。

 どんどん薄暗くなってきているが、街灯の数は少なく、不安になる菜那美。

 すると、突然、陸翔が立ち止まって言った。

「ほら、そこにベンチがあるから、休もうぜ」

 陸翔の指差す先には、たしかに自販機とベンチがあった。

 足が痛いのは間違いないので、菜那美は厚意に甘えることに。

 二人並んで腰を下ろすと、陸翔が言った。

「なぁ、大事な話があるんだ」

 その声のトーンから、深刻さを感じ取った菜那美は、思わず背筋をピンと伸ばして緊張した。

 自販機の灯りに照らされた陸翔の表情は真剣そのものだ。

「ど、どうしたの……?」

 何を言われるのか、怖くなって恐る恐る尋ねる菜那美。

 陸翔は大きく深呼吸してから、言った。

「菜那美のことが好きだ。俺と付き合ってくれ」