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天国の扉

セフレの彼は幼なじみ52

 智孝は一口、グラスの水を口に運んでから言う。

「単刀直入に言うと……予定より少し早いけど、僕たちのこの偽装交際のような関係を終わらせても大丈夫かな?」

「え?」

 昨晩ひとりで、もしかしたらそういうことなんじゃないかなと薄々予想はしていたものの、いざ本当に言われてみると驚きを隠せない菜那美。

 そんな菜那美の驚きを表情から読み取ってか、智孝が安心させるかのような落ち着いた表情と声で言葉を続けた。

「別に、何か不都合があってのことではないんだ。理由としては、単に……絵莉花を騙し続けている現状に、僕の弱い心が耐え切れなくなってきたから……ということで」

 菜那美は黙って、言葉の続きを待つ。

 智孝は穏やかに話し続けた。

「昨日、久々に僕の家へ絵莉花が来てくれて。一緒に宿題をしたんだけど、その合間に、菜那美ちゃんとの関係について、絵莉花が色々と尋ねてくるんだ。僕としても、当たり障りのない返答に終始してたんだけど……実際のところ、菜那美ちゃんと僕は付き合っていないわけで、そのことについて絵莉花を騙していることは間違いなくて……。かなり心苦しかったんだ。……この関係については、僕が言い始めたことなのに、身勝手で本当にごめん。だけど、当初の目的は必ず果たさせてもらうから。関係を解消しても、『円満に別れた』ということを強調しておいて、予定通りに夏祭りへは四人で行こうと思うし……行きたいと思ってるよ。本当に本当にごめんね」

 事情が分かった菜那美は笑顔で言う。

「全然、気にしないでね。智孝君のお陰で、夏祭りに一緒に行けるんだもん、私としては感謝の気持ちだけだから、謝る必要は全くないよ」

「ありがとう、菜那美ちゃんは優しいね。でも、僕がかなり菜那美ちゃんを振り回したことは間違いないから、本当に心から申し訳なく思っているよ。夏祭り、お互い楽しめるように願ってるよ」

「うん、楽しみだね。あ、海へ行くって言ってた話は、どうする?」

「日取りは未定だけど、それも『行けたら行きたい』って気持ちだよ。ただ、夏祭りの方が優先度が高いけど……」

「私も同感。あの……短い間だったけど、ありがとうね」

 そう言ってから、一抹の寂しさを感じる菜那美。

 智孝も同じ気分だったらしく、苦笑しながら言った。

「こちらこそ、ありがとう。……僕たち、本当に付き合っていたわけじゃないのに、何だか切ないなぁ。でも、別に二度と会えなくなるわけじゃないし、元気を出さないとね。これからも、友達として、戦友として、よろしくね」

「戦友かぁ……たしかに」

 うんうんと頷く菜那美。

 実際のところ、似たような悩みを抱えているので、この表現がしっくり来ると菜那美も思った。

 菜那美がやや胸をなでおろしながら言う。

「でも、よかったぁ……。もっと深刻で大変なお話かもしれない、って思ってたから」

「心配をかけてごめんね。こういう話は、電話じゃなくて、面と向かってしっかり伝えたかったから。それに、昨夜の段階で結論の部分だけを伝えてしまうと、ますますあらぬ心配をかけてしまうと思って」

「お気遣いありがとうね。うん、たしかに、智孝君の言うとおりかな。昨日、理由も聞かずに『この関係を終わりにしたい』とだけ聞いていたら、もっと悩んでたかも……」

「いずれにしても、本当に色々とごめんね、そしてありがとう。これからも末永くよろしくね! それまで唯一の女子の友達だった絵莉花に恋をして以来、女子の友達は一人もいない状態が続いていたから、菜那美ちゃんは依然として、僕にとって貴重な友達だよ」

 ここでも、「自分と似ている」と感じる菜那美が言う。

「あ、私も。陸翔以外の男子と、これだけ親しくなったのは生まれて初めてかな。こちらこそ、これからもずっとよろしくね!」

「水だけど、乾杯しよっか?」

 おどけたように笑いながら言う智孝。

 菜那美も笑顔になって頷き、グラスを合わせる。

 そして、二人はたわいもないおしゃべりをしながら、昼食を楽しんだ。