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天国の扉

セフレの彼は幼なじみ42

 ファミレスにて席に着き、水汲みや注文などを終えてから智孝が口を開いた。

「で、どう? 陸翔とのこと」

「特に変化はないかな」

 うつむき加減で答える菜那美。

「そっか、僕もだ」

 そう言う智孝の表情も冴えなかった。

 ふと誰かの視線を感じた菜那美が、こっそり振り返る。

 すると、やや離れたテーブルに座っている人たちが、智孝と菜那美の方をちらちら見ているようだった。

 その人たちの多くが、菜那美と同じ学校の女子生徒で、特に智孝の方を伺っているようだ。

 菜那美としては、その子たちの気持ちが分からないでもないので、そっとしておいた。

 陸翔一筋の菜那美だったが、智孝がイケメンだということははっきり認めている。

 もしも、陸翔に恋をしていなければ、かっこいい智孝と差し向かいで座っているというこの状況に舞い上がっていてもおかしくないと菜那美は思っていた。

 それでも、菜那美は全く胸が高鳴っていないのを感じている。

 陸翔と二人っきりでいるときとは違って。

 智孝がいくらイケメンであろうが、優しかろうが、そのことで気持ちが智孝へ移るようなことはあり得ないと、菜那美は改めて再確認した。

 もっとも、菜那美にとっては、陸翔もかなりのイケメンだと思っているのだが。

 しかし、菜那美が陸翔のことを好きなのは、ルックスからではなかった。

 どこが好きなのか、ということを言葉にするのは、菜那美自身にも不可能に思えている。

 菜那美としては、「陸翔の全てが好き。他の人は目に入らない」と言うしか言いようのないほど、陸翔ただ一人に激しい恋をしているのだった。

 智孝は少しだけ表情を明るくすると、再び口を開く。

「でも、菜那美ちゃんのお陰で、プールに行けることになったからホントに感謝してるよ。ありがとう! 何だか、絵莉花との時間を増やすために、菜那美ちゃんを利用しているみたいになってしまって、ごめんね」

「ううん、それはお互い様だから、気にしないでね。私こそ、こういう提案をしてもらって、本当に感謝してるよ。智孝君にこの計画を思いついてもらってなかったら、今頃きっともっと暗い気持ちだったと思うから……」

「いえいえ、どういたしまして。うーん、僕らはホント、つらい立場だね……。あの二人が破局しないと、自分たちの幸せはやってこないと分かっているのに、あの二人がどちらも良い人だから、邪魔することは気がとがめるという……」

「うん、そうだね……」

 智孝に深く共感し、頷く菜那美。

 智孝はさらに続ける。

「だけど、こうして同じ悩みを抱えている菜那美ちゃんに話すことで、救われてるよ。ひとりだったら、押しつぶされてるかも」

「それも、同じだよ……私も」

「そっか、ちょっと安心。僕ばっかりが、菜那美ちゃんを利用する形にはなってないってみたいだし」

「うんうん、私も本当に感謝してるよ。気にしないでね」

 少し気が軽くなった菜那美。

 それは智孝も同じらしく、顔を若干ほころばせて「ありがとう」と言った。

 そんな折、注文していた料理が運ばれてきて、しばし黙る二人。

 二人とも日替わりランチのハンバーグセットを頼んでいた。

「いただきます」と言って口に運んだ後、菜那美は「美味しい」と呟く。

「でしょ」と嬉しそうに言う智孝は、再び話を戻した。

「あさって、楽しい時間を過ごせるといいね」

「うん、そうだね」

 菜那美も心から、智孝と同じ思いでいた。

 智孝がハンバーグを口に運びつつ言う。

「あさってのダブルデートが終わったら、なるべく早いうちに、夏祭りの方も誘ってみるよ。断られる可能性はなきにしもあらずだし、ちょっと怖いけどね。ありそうでしょ、『そこは二人っきりで行きたい』っていうの」

「たしかに……」

 菜那美は「うまく、ダブルデートが成立しますように」と今の段階から祈るような思いだった。

 そして、菜那美が言う。

「いつも、智孝君にばかり、お誘いするお役目をしてもらって、ごめんね」

「いえいえ、気にしなくていいよ。大体、今度の計画を立てたのだって僕なんだし、僕が責任を持ってやらないとね。じゃ、ジュースだけど乾杯しよっか。ダブルデートの成功を祈って」

「うん」

 二人は微笑みながらグラスを持ち上げると、軽く合わせた。

 傍目には、どう見ても仲睦まじいカップルだ。

 その実、二人の間には恋愛感情ではなく、連帯感を伴った友情が芽生えているのだった。

 智孝が言う。

「前々から思ってたんだけど、菜那美ちゃんとは気が合うなぁ。今度の計画が終わっても、差し支えない範囲内で、友達として付き合ってくれないかな? こんなに気安く会話できる女子の友達は、絵莉花を除くと菜那美ちゃんが初めてなんだ」

「あ、私も同じこと思ってたよ。私にとっても同じく、陸翔以外の男友達って、智孝君だけだし」

「つくづく、気が合うね」

 笑い合う二人。

 お互いに対して恋愛感情を抱く可能性が微塵もないということが、二人に大きな安心感をもたらしていたのかもしれない。

 また、共通の悩み事があるということも、安心して友達づきあいができる大きな理由だろう。

 その後は、少し話題を変えて、たわいもないおしゃべりをしながら、二人は楽しいお昼時を過ごした。