スポンサーリンク
天国の扉

セフレの彼は幼なじみ33

 ところが、5時限目が終わったあとの休み時間、陸翔の方から菜那美に近づいてきて言った。

「智孝と付き合うことになったんだってな。聞いたぞ」

「え?!」

 不意打ちを食らって、菜那美は動揺した。

 周りに人がいるとき、しょっちゅうポーカーフェイスを貫いている陸翔は、今回もほとんど無表情だ。

 そのため、陸翔の心が読み取れず、菜那美の動揺に拍車をかける。

 陸翔は事も無げに言った。

「もうすでにうちのクラスだけでなく、学年中に広く知られてるぞ。智孝はああ見えて、校内人気が高いからな。とりあえず、おめでとう」

 真顔で言われ、どう言葉を返していいか分からない菜那美。

 しかし、陸翔の表情に全く寂しさや動揺などがうかがえないことから、菜那美は密かに心を痛めていた。

 やっぱり陸翔にとって自分は恋愛対象じゃなかったんだ、と改めて思う菜那美。

 でも、「よく考えたら、このリアクションは想定内」とも思っている菜那美は、そこまで深くショックを受けているわけではなかった。

 ともかく、色々と考えていたのは、実際にはほんの一瞬のことで、すぐに言葉を返した菜那美。

「あ、ありがとう……」

 複雑な思いでいっぱいの菜那美。

 陸翔が再び口を開く。

「で、今日から登下校はどうするんだ?」

「え?」

「俺と一緒に帰って、マズくないのか?」

「今まで通り、一緒に帰ろうよ」

 内心慌てていた菜那美だったが、努めて平静を保ちつつ答えた。

「そっか。でも、もし俺と二人っきりで登下校するのがマズイなら、遠慮なく言えよ」

「う、うん、ありがと。でも、ホントに全然問題ないから!」

 あまり必死すぎる様子をすると、色々と怪しまれがちなのだが、今の菜那美には取り繕う余裕がなかった。

 しかし、陸翔はさほど菜那美の様子を気にもしていないようだ。

「そっか、じゃあ今日も一緒に帰るか」

 陸翔はそう言うと、お手洗いにでも行くのだろうか、すたすたと教室を出て行った。

 そして、放課後。

 クラスメイトたちに挨拶をした後、陸翔と共に廊下へと出た菜那美は、いかにも人待ち顔をしている絵莉花が壁に背をもたせかけて立っているのに気づいた。

 相変わらず可愛いな、と思う菜那美。

 絵莉花も二人に気づくと、まず菜那美に会釈をしてから、陸翔に話しかけた。

「陸翔君、この後ちょっとだけ時間ない?」

 陸翔はちらっと菜那美に視線を向けたあと、口ごもった。

 陸翔に菜那美が言う。

「ああ、私のことは気にしなくていいから」

 すると、絵莉花が慌てた様子で言った。

「ごめんなさい、鷲沢さんと先約があったのですね」

 菜那美は、絵莉花とは対照的に、落ち着いて言う。

「いえいえ、お気になさらず。えっと、陸翔……君、行ってきてあげてね。一緒に帰るのはまた今度でいいから」

「え、菜那美。でも……」

 菜那美は「本当に陸翔って義理堅いなぁ。先約だからって、彼女さんのお願いよりも自分との約束を優先するなんて」と内心思っていた。

 そして、手を振って二人から離れながら挨拶する菜那美。

「大丈夫だよ。陸翔……君、また明日ね。夕凪さん、それでは、また」

 陸翔は何か言いたげだったが、「あ」と一言発しただけで、すぐに言葉を飲み込み、手を振った。

 絵莉花はこころもち微笑みながら一礼し、優雅に手を振っている。

 菜那美はそんな二人に再び手を振り返してから、校舎出口へと向かった。

 ひとりぼっちの帰り道、菜那美は今日のことを振り返っていた。

 智孝との計画のお陰で、夏休みイベントへ陸翔と一緒に行ける可能性が生まれたことは大きな収穫だと捉えている菜那美。

 しかし、帰り際のやり取りを思い出すと、菜那美の心は沈んだ。

「うーん、やっぱり彼女になりたかった……。今さらこんなことを言っても、後の祭だけど……」

 さっきは絵莉花に対して、自ら引き下がる形となった菜那美だったが、本心では陸翔と一緒に帰りたい気持ちで溢れていたのだった。

 それでも、「彼女でもない自分が出しゃばるといけない」と思い、絵莉花に譲った菜那美。

 また、絵莉花が外見だけでなく内面も美しい人だということも、その理由だった。

「性格がサイテーな彼女さんなら、その彼女さんに対してイライラしたり張り合ったりできるんだけどなぁ……。なんだか、同じようなことを智孝君も言っていた気がするけど」

 独り言を言うと、智孝のことを思い浮かべ始める菜那美。

 文武両道で、イケメンで、菜那美としては「いくら付き合う『ふり』とはいえ、自分にはもったいないほどの彼氏だなぁ」と感じていたが、陸翔のことを思い浮かべるときと違って、胸は全く高鳴らなかった。

 それは決して智孝に魅力がないわけではなく、「陸翔だけが特別」だからということを菜那美は自分でも理解している。

「明日は一緒に帰りたいな……」

 うつむきながら、再び独り言を言う菜那美。

 菜那美はとぼとぼと自宅への道を歩き続けた。