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天国の扉

セフレの彼は幼なじみ31

 智孝は言葉を続ける。

「でもね、一応あの二人を騙すことになるわけだから、心苦しいし、ちゃんと期限を決めておこうと思ってね。8月5日に夏祭りと花火大会があるの知ってるかな?」

「うん。去年までは、陸翔と一緒に行ってたよ。もちろん、二人っきりじゃなくて、他の友達も一緒の時もあったけど」

 楽しかった思い出を脳裏に浮かべる菜那美。

「鷲沢さんもそうだったかぁ。僕もずっと絵莉花と一緒に行ってたよ。でね、その夏祭りアンド花火大会へ行くということを、最大目標にしようと思うんだ。そして、あわよくばそれまでの間にもう一回、行き先はどこでもいいからダブルデートできれば御の字じゃないかな。あまりダラダラと、付き合うふりをし続けるのは、よくないかなと思って。騙して心苦しいだけじゃなく、例えば他の人にも説明しないといけなくなったり、付き合う演技を事前に打ち合わせしないといけなくなったり、色々と面倒そうだからね。あと、多分だけど、鷲沢さんと僕が付き合ってるふりをしたところで、あの二人に揺さぶりをかけられるかといったら、そんなことはないと思うんだ。そのぐらいのことで気持ちが揺れるくらいなら、絵莉花と僕はとっくの昔に、もっと関係が進展してるはずだし。そっちの面では期待できないだろうね」

 菜那美は激しく同意した。

 智孝はさらに話し続ける。

「ともかく、夏祭りへ一緒に行ければ、それだけでも大きな成果かなぁってね。正直、夏祭りと花火大会へ、絵莉花と一緒に今年は行けないってことだけで、僕の悲しみと寂しさは計り知れないほどだから。どんな形であれ、絵莉花と一緒に行きたいって思って……。何だか、そのために、鷲沢さんを利用しているような形になってしまっててごめんね。で、どうかな? 付き合うふりをしてくれる?」

「もちろん!」

 菜那美は二つ返事でOKし、さらに言った。

「私を利用しているとか、そんなこと全然思わないから。私だって、びっくりするほど、早乙女君と状況が似てて……。陸翔と一緒に、夏祭りや花火大会へ行けないって思うだけで、胸が苦しくて。だから、ぜひ、こちらからもよろしくお願いします!」

 すぐに了解してくれた菜那美を見て、智孝の顔色もパッと明るくなった。

 そして、菜那美に右手を差し出して言う。

「ありがとう! それじゃ、これからよろしくね。僕のことは『智孝』って呼んでね」

 握手を交わしながら、菜那美も笑顔で答えた。

「こちらこそありがとうね、智孝君。私は『菜那美』って呼んでね」

「菜那美ちゃんだね、了解! じゃあ、連絡先を教えておくよ」

 そして連絡先を交換した二人。

 少し気になることができた菜那美が、その質問を智孝にぶつけた。

「えっと、他の人にも知らせるんだよね? 智孝君と私がお付き合いを始めたってこと」

「僕はそうした方がいいと思ったんだけど、菜那美ちゃんが嫌なら、こっそりでもいいよ。とにかく、陸翔と絵莉花を納得させられれば、それで」

「嫌とか、そういうことじゃなくって。そっか……やっぱり、知らせた方が自然だよね。私もそう思う。陸翔って、用心深くて冷静だし、こそこそしてるって思われると、即バレてしまいそうで……」

「ああ、絵莉花も意外と鋭いところがあるし、気をつけてるよ。うん、たしかに、しっかり他の人にも広く認知されていた方が良さそうだ」

 納得しあう二人。

 何かを思い出したかのような様子で、智孝が言った。

「そうそう、補足なんだけど。もしも、何らかの予期せぬ事態が起こって、この『付き合うふり』という関係を辞めたくなったときには、即刻解除してくれていいからね。その場合、事後報告でいいから、僕に知らせてくれると嬉しいな。そして、僕の方からも、同じようにすることを認めてほしいんだけど……」

「うん、もちろん。あくまでも『ふり』だから、お互いスムーズに解除もできると思ってた方が、やりやすいよね」

「ありがとう。菜那美ちゃんとは気が合うなぁ。変な提案なのに、OKしてくれてホントに助かるよ! ああ、そうそう。それから……付き合うことになった経緯を誰かに聞かれたら、一応、僕の方から告白して、菜那美ちゃんがOKしてくれたってことにしておいてね。そのあたりも、話が合わないと、疑われるからね」

「あ、ありがとう……。でも、私みたいな普通の……地味な女子が、大人気の智孝君から告白されたって設定は、無理があるのでは……」

 事実、智孝はたくさんのラブレターを受け取っているという噂があるほどに人気が高いので、菜那美は気がかりだったのだ。

 しかし智孝は、苦笑しながら否定する。

「い、いや、僕に関しては、特段そんなこともないんだけど。人気っていうけど……単純に、一部の人々が僕を過大評価してくれているだけかな」

 菜那美は内心、「そんなことあるのに」と思ったが、口にはしなかった。

 事実、菜那美だって、智孝のことはイケメンだということに異議はない。

 ただ、菜那美にとって恋愛対象になるのは、世界で陸翔ただ一人なので、智孝も当然その範疇には入ってこないだけだ。

 智孝はすぐに続ける。

「ともかく、菜那美ちゃんが自分自身を過小評価していることだけは分かったよ。うちのクラスの男子の間でも、たまに話題に上ってるんだよ、菜那美ちゃん」

「え?!」

 菜那美にとっては初耳だった。

 悪い気はしないものの、「やっぱりただ一人、陸翔から好かれたい」という想いが強い菜那美。

 そしてまた、「ひょっとしたら、一度どこかで軽く話題になったのを、大げさに言ってくれてるんだろう。自分を気遣って」と思ったのだった。

 それほどに、自分の話題が、他のクラスの男子の間であがるなどということには、ピンと来ない菜那美。

 智孝は話を続けた。

「そういうわけで、いくら人が僕を過大評価してようが、『付き合うふり』には全く問題ないはず。菜那美ちゃん、これからよろしくね! 演技の都合上、僕のことも多少知ってもらわないといけないこともあるかもだけど、いいかな」

「もちろん! こちらこそ、これからよろしくね」

 再び笑顔で握手を交わす二人。

 こうして、「夏祭りダブルデート」という共通の目的へ向けて、共同戦線が張られることとなった。